俺は悪党、家族はヒーロー
反抗期って、誰もが通る道ですよね。
我が家の場合、反抗したら物理的に叩き潰されましたが。
反抗期、というものを知らない人は、おそらくこの日本にはいないだろう。
娘に来るとお父さんが泣くあれだ。
「おはよー」
「「おはよう」」
「お兄ちゃん、おはよう」
それについ最近までなっていた俺だが、高校卒業と同時に就職したことを機に、関係は修復した。
まあ、就職先は反抗期の勢いで決めてしまい、両親を納得させるのに時間がかかったが。
そんな家庭の危機を乗り越えた我が家だが、実は一つ盛大な問題があったりする。
「【悪の組織『バッドマスク』の怪人、『ゴブリンマスク』が再び町に現れました!!】」
「「「なんだって(ですって)?!」」」
テレビから流れるニュース速報が、朝の平和な時間をぶち壊す。
ぶっちゃけこの町ではいつものことだが、とりあえずうちの家族の問題点は後回しにして飯を食べよう。
「母さん!優子!『変身』だ!!」
「「ええ!!」」
両親と妹がポーズをとって光りながらゴチャゴチャやる中、俺は一人味噌汁を啜る。
ん?
出汁を変えたのか?
いつもと味が違うな。
「変身完了!『ムラカミレッド』!!」
「レッドなのはあんたの健康診断だ、バカオヤジ」
「『ムラカミピンク』!!」
「年甲斐も無くピンクはやめろ、クソババア」
「『ムラカミイエロー』!!」
「あ、醤油とって」
「あたしへのコメントはなし?!それとはい、どうぞ!」
アジの開きに醤油をかける。
む、今ので醤油がきれたか。
まあいい。
これで足りない塩っ気が補われた。
「いくぞ!二人とも!!」
「「はい!!」」
オヤジ(赤いの)の号令で、あっという間に家を出る三人。
おそらくは、テレビに映る現場へと向かったのだろう。
何せうちの家族は、俺を除いて全員が『正義のヒーロー』だ。
あと少しで、このテレビ中継にも映るだろう。
「ごちそうさまでした」
食事を終え、手を合わせる。
さて、そろそろ出勤だ。
スマホを操り、お目当てのアプリを選択する。
「『ダークチェンジ』」
音声を認識したスマホから、黒い霧が出てきて俺を包む。
その霧が晴れると、
「さあ、行くか」
黒のスーツにネクタイ装備の俺がいた。
過程はともかく、結果は実に普通。
【一人でさしたる唐傘なれば、片袖濡れよう筈がない】
「と、メールか」
今のは俺の着信音。
都々逸なのは気分。
「なになに?」
………なるほど。
家から直で仕事に向かって欲しいと。
「『マスクセット』」
スマホが音声を認識し、再び黒い霧が俺を包む。
その霧が晴れると、先ほどのスーツとは違い全身を刺々(とげとげ)しい黒の衣装に包み、これまた黒い鬼か何かを模したマスクをつけた俺がいた。
さて、ここまででだいたい我が家の問題が分かるだろう。
そう。
俺を除く家族全員が『正義のヒーロー』であり、俺の就職先が『悪の組織』だということだ。
普段ならばスーツで出社して、会社でこの姿になるのだが、この場合はしょうがない。
家を出て向かうは、ニュースに出ている町中。
「『ムラカミファイアー』!!」
「グアアアァァァァッッ!!」
「『ムラカミサンダー』!!」
「アベベベベベベベベッッッ!!!」
「『ムラカミウィップ』!!」
「もっとください!!」
現場に着くと、既に怪人はオヤジの炎、妹の電撃、オフクロの鞭によってリンチされていた。
つーかゴブリンマスク、お前なにを人の母親の鞭で感じてやがるんだ。
正義の味方特有のヘルメットのせいで分かりづらいが、中身は40過ぎたババアだぞ。
まあ、しょうがない。
今回組織から言い渡された仕事は、あの不出来な部下を回収すること。
あんなのでも、救出対象には違いない。
全員の目をこちらに向けるため、名乗りを上げる。
「ちょっと待ってもらおうか。『バッドマスク』が幹部、『オーガマスク』参上だ。そこの怪人を引き取りにきた」
「で、出たわね!オーガマスク!」
威勢よく啖呵をきる黄色だが、今日の俺の業務には関係ない。
「『グラヴィテーション』」
「「「あ!!?」」」
俺の、『オーガマスク』の能力である引力操作を使い、ゴブリンマスクを引き寄せて回収する。
「ちょっと!そいつを返しなさいよ!!」
何を言っているのかね、あの妹は。
「ごめんこうむる。これでも月の業務ノルマが決められている身なんでな」
それが会社員の辛いとこ。
いや、うちの会社悪の組織だけど。
「それではさらばだ。トロい黄色よ」
「何であたしだけ罵倒するの?!」
「それと、醤油がきれたから帰りに買っておいてくれ」
「家族間の連絡は変身を解いてからにして欲しいんだけど?!でも分かった!!」
お兄ちゃんはお前のそういう素直なとこが大好きです。
さて、後はゴブリンマスクを連れて出勤するとしよう。
さっさと医療班に、こいつを届けなくてはいけない。
「『リプルシオン』」
斥力を足元に使って宙に浮き、さらに別の角度に斥力を使って結構な高度の空を飛行する。
このまま飛んでいけば、すぐに組織の秘密基地に出勤できるだろう。
………そういえば、何で俺がこんなにおおっぴらに出勤しているにもかかわらず、うちの秘密基地は特定されないのだろうか?
主人公
名前:『村上 正義』→『オーガマスク』
年齢:21歳
親が『正義のヒーロー』のため、『正義』という名前に。
高校時代が反抗期の真っ只中で、そのままの勢いで就職先を決定。
悪の組織『ダークマスク』に入社。
その後割りとすぐに家族と関係を修復。
社会人になったことは大きかった。
主な業務は営業と戦闘。
現場で叩き上げ、わずか三年で幹部に。
表向きの役職は『有限会社闇仮面・営業部長』。
悪の組織だって、資金繰りは大変なんです。
村上家
父:『村上 大作』→『ムラカミレッド』
年齢:49歳
ヒーローの家系に生まれ、ヒーローとして育ったお父さん。
息子の職業のことは、『本人が選んだ道ならば』と認めている。
でも、敵として出会ったときには容赦しない。
ちなみに、『正義のヒーロー』は警察官扱いで、国から給料が出る。
母:『村上 美子』→『ムラカミピンク』
年齢:45歳
実年齢は40代。
見た目年齢は10代後半の村上家母。
学生時代に出逢った村上父との、燃えるような恋愛の末に結婚。
いつまでも若い外見のため、夫からはますます愛され、子供たちからは妖怪扱いされている。
妹:『村上 優子』→『ムラカミイエロー』
年齢:17歳
現役高校生だが、登校してからも出動が多いヒーロー業のせいで、出席日数や単位は大目に見てもらっているものの成績がヤバイ。
この前兄と戦闘しているときに対峙したが、その際ムチプリな女幹部とやけに親しげに話す兄を見て以来、なんかモヤモヤする日々を送る。