プロローグ
初投稿です。更新は不定期になるかと思いますが出来るだけ頑張ります。
今日は大学も休み、バイトも休み。私はこれ幸いとばかりに惰眠を貪ることにした。
私は風切嵐。大学一年の十八歳で、大学生となって早一ヶ月が過ぎた。大学生活そのものにはだいぶ慣れたが、私のこれまでの人生に溺れず、人間関係は致命的に悪い。私自身が関わろうとしないのも原因だが、私の見た目だけで判断する周囲の人間にも一因はあると思う。
まあ、私の外見と性格が気に食わないという人間に私自身関わりたいとは思わない。むしろどうぞ関わるな。
とはいえ、人間関係超不調な私だが一部の例外はある。
まずは叔父。父の弟で、とある事件によって家族を失った私を引き取ってくれた人だ。父の家系は特殊で、父はその血をほとんど引き継ぐことはなかったが、私は完全にその血を引き継いだ。その血の副作用なのか、私は周りと比べ外見がかなり特徴的だ。それによって、私は幼いころから周りから距離を置かれ、時には陰湿な苛めもあった。
だが、叔父も私と同じく、その血を多少引き継いでいた。叔父は私の最後の肉親であり、理解者だ。
次はバイト先の夫婦だ。二人は五十代で、夫婦で小さなケーキ店を営業している。私は高校生の頃からここでバイトをしているけれど、店長(旦那さん)は寡黙な仕事人で、人を見る目がある。奥さんは朗らかな性格で、とてもいい人だ。
では最後の一人。これは正直扱いに困っている。
ファーストコンタクトが最悪だったせいだ。初印象はクソガキ。
だが、そんな彼は今、何故か私に懐いている。本当に何でだろう。
惰眠を貪っていた私の住むマンションのチャイムが鳴り響いてきたのは、それとなく太陽が高くなったであろう午前十一時前後。カーテンを閉め切っているため推測だが。極度な低血圧の私にとって朝と太陽は敵だ。朝日を浴びて気持ちよく起きる? どんな神経の持ち主だ。
チャイムは鳴り止まない。最初は一定の間隔をあけて鳴らされていたものだったけれど、次第にリズムに乗ってきた。
「……なんで地〇の星?」
チョイスが謎だ。ここは三三七拍子と相場は決まっているだろうに。
面倒だけど、このまま放っておくといつまでも鳴らされ続けるだろうから私は嫌々ベットから這い出る。それとなく伸びた、寝癖のついた赤い頭髪と同じく赤い寝ぼけ眼に浮かぶ少量の殺意はそのままに、私はゆっくりと玄関に向かって歩いて行った。その間にもチャイムは鳴らされ続け、気がつけば別の曲に。
私はア〇パンマ〇のマーチを聴きながら玄関の鍵を音を立てないように開け、外にいる人間めがけて盛大に開け放った。
「睡眠妨害だ、この馬鹿が!」
「ぶっ」
文句はまだまだあるが、ドアの向こうで悶絶している気配がするのでとりあえず満足した。いつも何かとこいつに流されている感じがしてしょうがない為、こいつのこんな姿は見ていて愉快だ。
「っ……! まじで痛いんだけど! てか、まだ寝てたの嵐ちゃん」
「休みの日くらい惰眠を貪っていて何が悪い。俺は朝がこれでもかってくらい弱いことはお前も知っているだろうが」
「まあ、知っているけど……。そんなことよりさ、今日暇?」
「今日は一日中寝ることにしている」
「暇なんだね!」
「話を聞け」
この緩々なゆとり教育社会で育ったにも関わらず、周りのような今風な若者にならなかった天然記念物級の少年。近頃は外で走り回るような人間は少なくなったにも関わらず、この少年は体を思いっきり動かすのが大好きらしく(私には理解できない)、適度に日に焼けた肌と、爛々と輝く黒い目と、染めたことがないだろう、癖のある黒髪が印象的な少年だ。よくよく見れば顔のつくりは整っているのだが、残念ながら美少年よりは悪がきという印象が強い。背もちょっとばかり低いし。ちなみに私は女ながら百七十ぴったりある。この高身長と普段の格好と持ち前の性格のせいで男に間違えられるとが多いが、私は今更女らしくする気はない。超高音な甲高い声できゃいきゃいとはしゃぐような女になれと言われたら言った奴を瞬殺してやる。まあ、叔父とバイト先の二人を殺すことはしないけど。
「……って、嵐ちゃんなんつー格好してるの!?」
と言われ自分の姿を確認する。普通にシャツとズボンをはいていおり、特におかしなところは無い。
「……特に変なところは無いが」
「肩! 出しすぎ!」
……よく見れば確かに少し大きめのシャツがずれており、たいした色気も無い私の肩が露出していた。とはいえ、そこまで騒ぐほどのものでもないが。
「女の子ならそういう格好で出ちゃダメだって! 早く着替えて、待っているから!」
少年は強制的に私を押し戻して扉を閉めた。というか私はもう女の子という年齢ではない。
もそもそと歩き出しながら、そういえばあいつは男兄弟のど真ん中で育ったことを思い出す。女に対する免疫が無いのだろうと思い私は着替えるために再び自室へと向かっていった。
今の少年の名前は竜宮銀。高校一年生の十五歳。
一年前に最悪な出会いをした少年がこいつだ。基本的にはいい奴で、たまに人の話を聞かないマイペースなところがあり、人と微妙にずれているところがある。
たとえば今のように。今の姿で反応するのは微妙なところだと思うだのが、それでも普通そういう反応は私がドアを開けて私の姿を見た瞬間にするものだろう。