君と僕の子
「ご主人様。エラーが起こりました」
そう言われて僕は君を見る。
腹が膨れている。
随分と。
「どうしたんだ? その腹は」
「どうやら排水機能にエラーが起きているようです」
「なるほど。内部に溜まっているのか」
「さようでございます」
君は女型のアンドロイドだ。
それもあってこうして見てみると妊婦に見える。
「そのまま放置すればどうなる?」
「いずれは破裂しますね。機械なのですぐには破裂しないとは思いますが」
「でも早めに対処した方が良いだろうな」
「ええ。それは間違いありません」
エラーなどすぐに修正するに限る。
そう思ったのに僕はふとくだらない事を考えてしまう。
「なぁ。どれくらいその腹は放置しても良いと思う?」
「今すぐにでも対処した方が良いと思いますが」
「それは分かっているんだ。だけど、あえてと聞いたなら」
「そうですね。半年は大丈夫かと」
「ならば、もう少しだけその状態でいてもらってもいいか?」
君が拒むはずもない。
何せ、君はアンドロイド。
つまり機械なのだから。
「かしこまりました。ですが、危なくなったら事前にお伝えいたします」
「あぁ。頼むよ」
*
君の腹は少しずつ膨らんだ。
僕はそれを見守りながら、時に君の腹を撫で、時に君の腹へ声をかける。
幸いなことに君はアンドロイドだ。
主人が如何に気持ち悪い行動をしていようとも特に何かを言うはずもない。
そしてあっという間に半年の期間が過ぎた。
腹は臨月のように膨らみ、君は人間でもないのに苦し気な表情を浮かべる。
もっともそれは主に異常を伝えるためにアンドロイドが標準で搭載している機能によるものだけれど。
「ご主人様。限界です」
「あぁ。分かっているよ。今まで悪かったね」
そう言って僕は君をただちに工場へ送った。
古くからの友人が社長をしている工場へ。
*
「あのさぁ。なんでこんなになるまで放置していたの?」
随分と皺の目立つ友人がブツブツと文句を言いながら君の修理を行う。
君は電源を切られているから何か言うこともない。
「第一。このアンドロイドはもうとっくに型落ちしてんのよ。いい加減買い換えたら? 今時排水機能がついているなんて本当に珍しいんだから」
君は色々と言うけれど、僕は決して首を縦に振らなかった。
そんな僕を見て君は舌打ちをする。
「正直言って複雑なんだからね。若い頃の自分と瓜二つのアンドロイドを修理するのは」
分かってるよ。
僕はその意味を込めて頷いた。
そう。
このアンドロイドは僕の古い友人がモデルになっている。
そのおかげで僕はいつまでも変わらない姿の『君』と一緒に居られる。
反対に言えば僕がこのアンドロイドを決して買い換えないのはこれが原因でもある。
「で。あんた。そろそろ男は出来たの?」
『君』が無遠慮に聞いてきたので僕は首を振る。
僕と違って『君』は割とすぐに結婚をした。
同じ工場のとっても良い青年と。
「いい歳なんだから早いとこ結婚しなよ。出ないと子供も産めなくなっちゃうよ?」
僕は答えた。
「ほっといてよ。私のことなんか」
『君』は呆れて首を竦め、君の中にあった水を全て取り除いた。
「はいよ。これでもう問題なし。あとはこの水を捨てるだけ――」
それを聞いて僕は慌てて『君』を止めた。
*
帰り道。
過去の友人にそっくりな君は僕に問う。
「そんなものどうするんですか?」
僕が大事に抱えている小瓶。
その中身は君の中に入っていた水。
「気にしないで」
「ですが――」
「いいから」
僕はそう呟いて小瓶に声をかけた。
「お母さんと――お父さんですよ」
僕の声は君に聞こえていたはずだ。
僕が愛した『君』にそっくりな君に。
同性故に結ばれることを諦めた、あの日の友人にそっくりな君に。
「ご主人様」
アンドロイドは人間を傷つけることを禁じられている。
故に、君は。
「これからは旦那様とお呼びしても?」
僕が求める問を投げかけてくれた。
惨め極まるこの僕に。
「機械と恋愛なんて出来るかよ」
僕は人間だ。
だから、君をあっさり傷つける言葉を吐ける。
けれど、幸いにも君には心がない。
「さようでございますか」
アンドロイドは平時と変わらず穏やかに返すばかり。




