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雨季のさきがけ

 

 はじまった。

 朝、一階へ下りると、フロア一面が結露して、床がびっしょり濡れていた。

 湿気の季節の始まりだ。

 毎年、この時期になると、あたりはもやに包まれ、もわっとした空気があたり一面に漂う。五百メートル先の高層ビルの上半分が霧に隠れている。ベランダに洗濯物を干しても乾かない。シャワールームも昨夜シャワーを浴びた時と同じ状態で、ずっと濡れたまま。換気扇を回しっぱなしにしてもすこしも乾かない。

 仕事場へ行けば、倉庫の貨物が濡れているという。貨物には特大サランラップでラッピングをしてあるので、ラップの外に水滴がついただけだけど、この湿気では金属性の部品に錆が生じやすいので心配だ。

 夕方、部屋へ帰ると、ドアが濡れていた。パソコンに向かうために、椅子に腰掛ければ、椅子に置いた竹の尻当ても湿っぽい。試しにアコースティックギターを弾いてみたら、湿気のせいでチューニングが狂ってしまい、音がばらばらになっていた。この間、知人にいただいたマーチンだから大切にしたいのだけど。マーチンはほんとうにいい音がする。湿気で傷めてしまっては申し訳ない。ハードケースを買ってきて、なかに乾燥剤をいっぱい入れて保存しておいたほうがよさそうだ。

 今はマンションの九階へ引っ越したのでずいぶんましだけど、去年は、出稼ぎ労働者が住む町の片隅で一階の部屋を間借りして住んでいたからたいへんだった。床一面にバケツで水をぶちまけたようで、スリッパで部屋を歩けば、つるつるすべって危ない。踏み出した足だけつっーとすべり、何度も股裂き状態になって怖かった。モップがけをしても、そのそばからすぐに床が濡れてしまう。窓は閉めたまま。開ければ、湿気をたっぷり含んだ重い霧がなだれこんでくる。湿気のおかげで体がぐにゃぐにゃになりそうだった。

「食在広州(食は広州にあり)」というだけあって、ここは食べ物がおいしいし、とくに飲茶は最高なのだけど、亜熱帯特有の湿度の高い気候がやっかいだ。もうすこし気候がよければ住みやすいのだけれど。

 こんな状態が半月かそこら続いて、すこし天気がよくなったかなと思ったら、本格的に雨季へ突入する。一日中しとしと雨が降ったり、スコールになったり。

 床がびしょ濡れになるのは雨季のさきがけだ。

 この地で暮し始めて三度目の雨季。

 今年は、もうすこし上手にやりすごせるようにならないと。


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