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体内被曝が怖い

 

 ラジウム温泉では、微量のラジウム(Ra)やラドン(Rn)などを含んだ鉱石から放射能が放たれる。放射能が人体の細胞を傷つけるのだが、その際、人体の自然治癒作用が働き、身体が活性化する。ほんのすこし体を傷つけることで逆に身体が元気になるというしかけだ。

 放射能による健康被害については諸説が乱れ飛んでいる。CTスキャンでも放射能をあびるのだから大丈夫という説や、レントゲン撮影時の放射線量と比較して今回飛び散った放射能はたいしたことはないという説もある。

 だが、被爆に関しては次の二点がポイントになる。


 1 累積被爆量(放射能を浴び続ける時間とその量がどれほどになるか)

 2 体内被曝の有無(放射性物質を体内に取りこんだかどうか)


 レントゲンの撮影は一瞬で終わってしまう。係りの人に、

「大きく息を吸ってください」

 と言われ、息を吸ったところでバシャッ。それで撮影終了だ。しかし、福島第一原発から出た放射能が空中に浮遊している状態ではそうもいかない。

 消防庁や自衛隊の必死の放水作業のおかげで福島第一原発の危機がとりあえず一山越えたとはいえ、放射能はまだ撒き散らされ続けている。原子炉本体の状況が不明な今、まだまだ予断を許さない。二十日午後十二時過ぎの保安院の記者会見では、三号機の格納容器内の圧力が上昇しているため、なかの空気を抜いて圧力を下げるという。つまり、放射性物質がまた撒き散らされるということだ。しかも今までのウェットベントの方式とは違い、ドライベントで行なう予定とのことだ。ドライベントを行なえば、今までの百倍の放射能が飛び出すことになるという。また、二号機の格納容器は損傷しているとの発表があった。つまり、今後、長期間にわたって放射能が漏れるということだ。今後、各地の人々の累積被爆量がどうなるのか、まだまだ予測不可能だ。

 放射能が充満した格納容器の弁を開けると言われても、さほど驚かなくなってしまった。放射能に慣れてしまうことがいちばん怖いことなのかもしれない。ドストエフスキーは『死の家の記録』のなかで、人間はどんな悲惨なことでも慣れてしまうものだと書いていたけれど。

 レントゲンのように体の外から一時的に微量の放射能を浴びたとしても、さほど心配はいらない。

 いちばん怖いのは放射性物質を体内へ取りこんでしまうことだ。外からの被爆と内からの被爆では話がまったく違う。放射性物質を含んだ水や埃を体内へ入れてしまうのがいちばん恐ろしい。

 ヨウ素131やセシウム137といった放射性物質をいったん体内に取りこんでしまえば、人体に重大な影響を及ぼす。ベラルーシではチェルノブイリ原発事故の際、ヨウ素131を甲状腺へ取りこんでしまった子供がかなりいて、今でも甲状腺の異常肥大などに悩まされている。ずいぶん以前にそのドキュメンタリー番組を見たことがあるけど、子供たちが苦しむ姿は見ていて気の毒でならなかった。大人は大丈夫だとしても、子供が危ない。被爆した子供たちは、健康ばかりではなく、社会的に差別されて苦しむことにもなる。

 報道では「微量の放射性ヨウ素やセシウムが検出された。健康に影響はない」としているが、用心に越したことはない。健康以上に大切なことはないのだから。

 僕の祖父は被爆者手帳を持っていた。

 ヒロシマで原爆投下があった時、兵隊にとられていた祖父は山向こうに駐屯していて、核爆発直後の広島市内へ入って救助活動を行なった。

 不幸中の幸いというべきか、祖父は原爆病に罹ることなく、酒の飲みすぎが原因で脳溢血で他界した。

 ただ、当然のことながら、戦友のなかには原爆病で苦しんだ人がかなりいたという。戦友会の世話役をしていた祖父は戦友が発症するたびに役所や議員とかけあっていたのだとか。

 余談になるが、祖母は祖父にそんな活動をするのはやめてほしいと思っていたそうだ。祖父の戦友には「原水爆絶対反対」の信念をもつ左翼系の人もいる。被爆者なのだから、そんな人も多かっただろう。戦前、社会主義思想をもつ祖母の親戚のお兄さんが特高に捕まって拷問にかかったそうで、祖母は左翼の人が家にくれば、彼らを追いかけている特高がまでが家へやってきて、祖父が捕まってしまうと非常に怯えていたのだとか。いくら時代が変わったとはいえ、過去の忌まわしい記憶がまとわりついてはなれなかったようだ。

 閑話休題。

 原爆病の発症のしかたは人によってまったく異なる。同じ部隊に所属していて広島市内の同じ被災地で作業していたにもかかわらず、祖父のようにまったく発症しない兵隊もいれば、戦友のように発症してしまう人もいる。なかには繰り返し白血病になって悲惨な目に遭った人もいたのだとか。その人の体質によるのかもしれないが、救助活動中に埃を吸ったりしているはずだから、その時どれだけ埃を吸ったりして内部被爆したのかということもおそらく関係しているのではないかと思う。

 長々と文章を連ねた挙句、最後にちゃぶ台をひっくり返すようなことを書いてしまうけど、実をいえば、放射能が人体にどんな悪影響を及ぼすのか、その全貌も細かい実態も、誰もはっきりとわかっていない。悪魔の尻尾はつかんでいても、その姿を見た人は誰もいない。わかっているのは恐ろしいことになるということだけだ。それはscientistと称している人も同じだ。なにしろ、人類が放射能を「発見」してから、ほんの百年ばかりしか経過していない。まだまだ研究不足だ。

 今回の事故で環境中へ放出された放射能を体内へ取りこんでしまった人が、それがもとで将来癌になったとして、いったいだれが今回の事故の放射能が原因だと証明できるのだろうか? 統計として発癌率がどれほど高まるのかということは言えるのかもしれないが、個々人がこうむる具体的な影響まではわからない。万が一のことがあった場合、泣き寝入りしなければならないのは当人だ。自分の身は自分で守るしかない。

 とりわけ、妊娠中の方や子供は、事態の収拾がつくまで、用心に用心を重ねるに越したことはないだろう。疑わしいと思われるものは口に入れないこと。また、風向きと雨に要注意だ。

 こんなことを書けば、風評被害を広めるなと言われるかもしれないが、現状ではリスクをすべて排除すべく万全の対策を採るしかないと思う。それが決死の覚悟で事故現場へ向かった人たちの想いへ応えることではないだろうか。彼らはこれ以上の犠牲者を出さないために、敢えて危険な現場へ赴いたのだから。

 彼らの努力が実を結び、一刻も早く事態が収拾されることを祈るばかりだ。



 原発には当然ながら大きな利権がからんでいます。

 今はまだそのことを云々するべきときではありませんが、ここもメスを入れなければならないところです。たとえば、テレビ局や新聞は電力会社から広告収入を得ているために、正面切って電力会社や原発を批判しにくいことなどです。そのことを頭の片隅に入れておいていただければ幸甚です。


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