放射能の村でじゃがいも畑を耕す老婆
前回、放射能は風下へ向かって広がると書いたけど、もちろん例外もある。
チェルノブイリ原発事故による汚染マップを見れば、まったく関係なさそうなところにぽつりと高濃度の汚染を示す点がある。まるで筆先からぽとりと絵の具の色が落ちたみたいに。これをホットスポットと呼ぶらしい。
なんでも風の流れからふらりとはぐれた放射性物質が雨となってそこへ降り注いだのだとか。だから、風下ではないからといって、決して安心できるわけでもない。放射能が名札をつけているわけでもないから避けようがないけど、とにかく雨に打たれないことが大切だ。
ふと、昔観た映画を思い出した。
チェルノブイリの半径三十キロ以内にある立ち入り禁止の農村を取材したドキュメンタリー映画だった。
ここが放射能に汚染されているのかと思うくらい、夏の森はきれいだった。背中に透明の翅をつけたかわいらしい妖精でも出てきそうだ。もちろん、見目麗しい自然を仔細に調べてみれば、さまざまな傷跡や畸形の植物や動物が見つかるのだろうけど。
村人たちが強制退去になった廃村のなかに一軒だけ、まだ人の住んでいる家があった。皺だらけになった老夫婦が暮らしていた。子供や村人たちがいくら説得しても頑として耳を貸さないそうだ。この村で生まれ育ったのだから、最後までここで生きてここで死ぬと。老婆は節くれだった手に鍬を持ち、庭のちいさなじゃがいも畑を耕していた。
歳を取ってから他所へ移り住めと言われても困ってしまうだろう。それも生き方のひとつなのだろうけど。老夫婦がいけないというわけでもないのだけれど。
ベラルーシ(白ロシア)におけるチェルノブイリ原発事故の汚染マップを掲載しているサイト。
http://www.kakehashi.or.jp/