エジプトのようなネットによる革命が大陸中国で可能か?
エジプトでネットによる革命が起きた。
民衆がネット上で次々とムバラク大統領の退陣を訴え、それに賛同した民衆が広場に集まり、デモを行なった。約三十年間、独裁政治を行なったムバラク大統領は退陣を余儀なくされた。
中国政府はこの民衆革命にかなり神経を尖らせており、エジプトに関する報道を統制している。中国では人民が不満をためこんでおり、このマグマがいつ爆発してもおかしくないからだ。
中国は経済成長が続いている。二〇一〇年のGDPは、日本を抜いて世界第二位になったことがほぼ確定したようだ。だが、経済発展の恩恵は、一般の人々へはほんのすこししか行き渡らない。ごく一握りの成功した人を除けば、実質賃金は下がる一方だ。物価が上昇しても、賃金はそれに見合うだけ増加しない。その一方で、公務員の給与は経済成長以上に伸び続け、官が民を収奪する形になっている。役人の腐敗も激しい。最近、中国鉄道省の大臣が収賄容疑で解任されたが、これはほんの氷山の一角のそのまたひとかけらに過ぎない。逆にいえば、役人へ賄賂を渡せば、融通をきかせてくれるということになるのだが。
さて、エジプトで起きたようなネットによる革命が中国でも起きるかといえば、当分、その芽はないだろう。
第一、大陸中国ではネットは厳重に規制されており、ネット上に政府批判の書き込みをしただけで逮捕された例もある。
中国のネットには政府批判の書き込みは見当たらず、政治的なサイトもない。そのようなサイトが出現すれば、「調和を保つ」という名目でただちに閉鎖措置が取られる。したがって、ネット世論といったものが形成されることもない。中国政府が危険と認定した海外サイトにはアクセス禁止処置が取られるので、海外の情報も入ってこない。中国のネットは反政府運動を起こそうにもできないように処置が施されているのだ。中国の独裁政権は、今のところ小さな反抗の芽も確実に摘み取ることに成功している。
第二に、中国の人民はまだ衣食住が脅かされるほど貧窮に陥ってはいないことが挙げられる。
歴史を紐解けば、この国で革命が起きるのはいつも決まって人民が食うやくわずの状態に置かれ、混乱状態に陥った時だった。食べ物があるうちは、この国の人民は権力に対してはかなり従順だ。なにかあっても、「しかたない」と言ってすぐに諦めてしまう。
現在、中国の各地で暴動が頻発し、デモ隊と警察隊が衝突して死傷者が出たりしているが、小規模なデモ隊が中国共産党の権力基盤を脅かすような事態には至っていない。いくら暴動が起きても、中国共産党はそれを押さえこむことができる。中国共産党の権力はまだ揺るぎないものがある。小規模な暴動といった小さな問題が生じることがあっても、全体としては人民をしっかり統制している。
将来、もし中国でネットによる革命が発生するとすれば、人民の生活が立ち行かないほど切羽詰り、政治が混乱して政府の統制がきかなくなった時だろう。
それにしても、と思わずにはいられない。
「共産党」という政党は労働者や農民といった働く人々のためのものだったはずだ。その働く人々のための政党が人民を搾取するあまりに人民の暴動を恐れるとは、下手なポンチ絵でも見ているようだ。
エジプトで起きた民衆革命は喜ばしいニュースだったが、軍のクーデターによって覆されてしまった。軍部がエジプトを乗っ取ってしまったのだ。これでは民衆革命の意味がまったく失われてしまう。ムバラク大統領という独裁者の後に、別の独裁権力が現れただけのことだ。
理解できないことに、アメリカのオバマ大統領がこの軍事独裁政権の誕生を歓迎する意の声明を発表した。アメリカは、世界中を民主化したがっていたのではないのか? 民主主義と軍事政権は対極にあるものだ。これでは道理が通らない。結局、アメリカにとって都合のいい政権なら、誰でも支持するということなのだろう。
※1 カタールのアラブ専門衛星放送「アルジャジーラ」のサイトでエジプト民衆革命の様子を見ることができます。
http://english.aljazeera.net/indepth/spotlight/anger-in-egypt/
※2 大陸中国のネットについては、以前、エッセイ『大陸中国の困ったネット事情』に書いたので興味のある方は御覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n1638l/