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今年最後の眠りに就く前に2010


 今年はというか、今年もというべきか、いろんなことがあった。

 個人的にはかなりきつい一年のスタートを切ったのだけど、なんとか乗り越えることができてほっとしている。困難な時期にいろんな方に励ましの言葉をいただいて感謝にたえない。お陰さまで、なんとか今年も生き延びることができた。また、今年もやさしい人や誠実な人にたくさん出会うことができた。それがいちばん嬉しいことだった。

 僕が今住んでいる中国でも、故国の日本でもいろいろがあったけど、ひとつだけ書いておきたいことがある。

 暮らしの問題だ。

 いや、暮らしなどというこんな書き方は生ぬるいだろう。ここまで事態が悪化した今では、むしろ生存の問題と呼べきだ。

 数多くの人々が満足に生計を立てられなくなって久しい。

 以前、ほかのエッセイで書いたことだけど、この問題は一個人の力でどうにかなるものではない。世の中の仕組みを変えなくてはどうしようもない。このことはいくら力説してもしたりないくらいなので強調しておきたい。生計を満足に立てられないのは、決して個人の努力不足などではない。世の中が人々を生きさせない仕組みになっているからだ。人々の暮らしが成り立つようにするためには、早急に世の中の仕組みを変える必要がある。

 今の仕組みではいくら企業が儲かっても、働く人々に還元されるようにはなっていない。リストラや賃金カットをして利益を上げた企業の取締役が企業の利益を増大させたとして高額の報酬を得るようになっている。これではあべこべだ。正規労働者、非正規労働者を問わず労働条件は厳しくなるばかりで、人間がモノ扱いされている。こんなことが許されていいのだろうか?

 仕事にありつけない人も大勢いる。仕事に就けないということは、世間に参加できないということだ。多くの人々が世の中から疎外されている。世の中に「お前はいらない」と言われた人々の気持ちはどうだろう。つらいどころではない。命がかかっている。生きる糧がどうしても手に入らなければ、ホームレスにならざるを得ない。これも許されないことだ。

 この問題の根底にある大きな要因の一つは、グローバル企業が競争力強化を口実にして行なう下請け企業叩きだ。グローバル企業が彼らを支えている下請け企業に対して情け容赦ない値下げ要求を続ける限り、この問題は解決しない。とはいえ、グローバル企業は人の生き血をすするようなまねをやめないだろう。極端な話、グローバル企業の本社に爆弾でも送りつけて爆発させでもしない限り、彼らの考え方は変わりそうにもない。下請け叩きという暴力に対しては、別の形の暴力でしか対抗できないのがこの世の悲しい現実だから。

 危機はすぐそこに迫っている。

 今の世界経済の状態は非常に危ない。リーマンショックに端を発した金融システム崩壊の諸問題は根本的にはまったくなにも解決していない。とりあえず痛み止めを打って誤魔化しているだけの話だ。来年もヨーロッパの国が破綻するだろう。下手をすれば世界恐慌になるかもしれない。

 そんな事態に陥った場合、今の仕組みのままでは数多くの人々が不幸を抱えこむことになる。大勢の人々が追いつめられ、食いつめた人たちは命さえ落とすことになるだろう。

 時代の闇は濃くなるばかりだ。

 だけど、未来を変えられないわけではない。未来は自分たちの意志ひとつにかかっている。どんなに動かしがたい仕組みに思えても、変えられない仕組みなどなにひとつない。古い話になるけど、ベルリンの壁だって壊れた。ソビエト連邦が解体してバルト三国などは独立を勝ち得た。日本人だって同じことができる。人間は、仕組みや状況に適応することだけが能ではない。新しい仕組みや状況を創り出す力も持っている。ひどい体制をくつがえすことができる。希望はいつでも、一人ひとりの人間のすぐそばにある。

 一個人としては、世の中がどうなろうと、日本がどうなろうと、世界がどうなろうと精一杯生きなくてはいけない。仕組みや状況がどうだからといって、自分をあきらめるわけにはいかない。

 ――畢竟ひっきょう、意志の問題だ。

 これは中原中也の詩『頑是ない歌』の一節だけど、この頃、この言葉がよく心に浮かぶ。




 今年最後の『ゆっくりゆうやけ』になります。

 読んでくださったみなさま、感想を送っていただいたみなさま、ツイートしてくださったみなさま、レビューを書いてくださった星野さま、ほんとうにありがとうございました。みなさまの温かいご支援のおかげさまをもちまして、ここまで続けることができました。来年もぼちぼち更新しますので、よろしくお願いいたします。

 みなさまの二〇一一年が実り多きものとなりますように。

 それでは、よいお年を。



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