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口ひげ男の唖然な口説き方

 いきつけの日本居酒屋で食事をしていたら、インド人かパキスタン人かそれとも他の国なのかはわからないけど、ともかく南アジアもしくは中東系の口ひげを生やした中年男が二人入ってきた。二人ともジャージ姿だ。どうやらアジア大会で広州へやってきたスポーツコーチのようだった。

 なんと口ひげ男は、生ビールを運んできた広東人のウェイトレスに、

「会いたいから、明後日、お前の部屋へ行く」

 といきなり訛った英語で宣告するではないか。

 ウェイトレスは、私の部屋はテレビがないからなどと言って婉曲に断ったけど、「会いたいから行くんだ。明々後日しあさってはもうここを離れて国へ帰るから明後日しか会えない」とかなり強引。ウェイトレスはしかたなく「わかったわ」と答えてその場をおさめた。

 ボトルで入れた焼酎を飲んでいた僕はなにげなくやりとりを聞いていたのだけど、唖然としてしまった。

 そのウェイトレスはしっかりした子だ。中学を出てすぐに働きに出ているから僕なんかよりもよっぽどしっかりしているし、居酒屋で働いていればいろんな客がくるから助平オヤジをあしらう術も心得ている。たぶん大丈夫だろうとは思ったのだけど、とはいえ、なにかあったら助けてあげなくてはと、それから一応彼女と口ひげ不良外人の会話に耳をそばだてておいた。なかなか酔えない。

 広東人はよくも悪くもしたたかだ。けっこうずる賢い。危険を察知したら笑顔でさらりと逃げてしまう。彼女はあたりさわりのない冗談を言って客を笑わせながらも、それ以上、彼らになにも言わせなかった。

 店を出る時、

「わかってると思うけど、あんなやつらを部屋に入れたらあかんで」

 と僕が言ったら、

「わかってるわ」

 と、彼女は面倒くさそうにうなずく。

「こんなのはたまにあることだから」

 適当に煙にまくのだろう。商売柄とはいえ、助平おやじの相手をしなくてはいけないのはつらいところだ。

 それにしても、初対面の女の子にいきなりお前の部屋へ行くなどというあんなストレートな口説き方は初めて聞いた。欲望が丸出しではないか。そんなので女の子を落とせるとでも思っているのだろうか。まさか、口ひげ男の本国であんなやり方が通用するわけでもあるまい。

 日本人でも中国へやってきてから女遊びに目覚めて頭のヒューズが飛んでしまったような人をたまに見かけるから、国や民族を問わず、外国ではなにをやってもいいんだと勘違いして妙な弾け方をしてしまう男はいるものだ。だけど、それにしてもなんとも理解に苦しむ口説き方だった。



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