僕がアイスクリームをせっせと買うわけは
僕の奥さんは毎日一所懸命ダイエット体操をする。
リビングで息を切らしていろんな体操に励む。
「がんばってるね」
と僕が言うと奥さんは、
「あなたも一緒にやりなさい」
と決まって言うので、
「本を読んでいるところだから」
などとつぶやいて僕はそそくさと逃げる。
奥さんが健康な体を保とうとするのは結構なことなのだが、一つだけ困ったことがある。
ダイエット体操で疲れ切って不機嫌になることだ。
家庭の平和は奥さんの機嫌が九割。
奥さんの機嫌さえよければほとんどうまくいく。
不機嫌になられてはこちらが困る。
問題のない家庭なんてない。問題のない人生もない。
要はなにがあってもどれだけ機嫌よく過ごせるかだ。不機嫌でいると困難に立ち向かえないし、立ち向かったところでこちらがボロボロになってしまう。機嫌さえよければ、なんでもなんとか乗り切れられる。とにかく、いつも奥さんの機嫌を取っておかなくてはいけない。
奥さんの機嫌がいちばんいいのは、アイスクリームを食べる時だ。
ときどき、僕は散歩の帰りにスーパーやコンビニでアイスを買ってくる。奥さんは上に細かくきざんだ色とりどりのフルーツがのったカップアイスとあずきバーが好きだ。このふたつを中心に、たまにソーダアイスなども買う。
「アイスを買ってきたから食べなよ」
と僕が勧めると、
「ダイエットしてるから食べない」
と奥さんは意地を張って拒否するので、僕はいつもアイスを冷凍庫へ入れた後、
「僕のアイスクリームだからね」
とだけ言っておく。
すると奥さんはたいてい風呂上がりに美味しそうにアイスを食べる。とても幸せそうだ。わかりやすい。
奥さんが機嫌よさそうにしているのを見て、僕はうまくいったとほっとする。