雪のない雪国
ふと思い立ち、秋田新幹線こまち号に乗って東京から秋田県の大曲へ行った。盛岡から秋田県大曲を結ぶ田沢湖線をまだ全部乗っていなかったので完乗したかった。
朝、上野駅でこまち号に乗ると、西洋人の観光客と中国人の観光客がわりと乗っていた。それでこまち号の切符が取りにくかったのだなと納得した。
こまち号は満員のまま走り続ける。
一ノ関を過ぎても、北上を通過しても雪がない。
とうとう、盛岡に着いたのだが、どこにも雪が見当たらない。
記録的暖冬だとニュースでいっていたけど、盛岡ですら雪がないとは思わなかった。
こまち号は盛岡から田沢湖線へ入った。
ここからがいわゆるミニ新幹線の区間になる。
盛岡駅から二つ目の大釜駅で対向列車を待ち合わせる。
この大釜駅には、新幹線車両の雪落とし設備がある。
秋田方面からきた列車には特に足回りに雪がたくさんついているので、温水シャワーを車両にかけて落としてやるのだ。以前一度見たことがあるのだけどなかなか面白い。だが、対向列車にはまったく雪がついていない。したがって、雪落としもやらない。残念だった。
こまち号は雫石駅に停車した。雫石でも雪がない。
こまち号はこの先、岩手県と秋田県の県境の秘境区間を走る。
景色がいい。川の水も青く澄んでいる。ようやく雪が積もっているのが見えた。ただし、やはり少ない。最も山深いところは雪がたくさん積もっていて見応えがあったけど、それ以外はそれほどでもなかった。
こまち号は角館駅に入る。角館も雪は少ない。
角館を過ぎてしばらくすると雪がまったくなくなった。
雪のない風景を唖然として見ているうちに、こまち号は大曲駅に到着した。
これで念願の田沢湖線完乗を果たしたのだが、まさか大曲にまったく雪が積もっていないとは思ってもみなかった。
食事に入った食堂で地元のおじさんに聞いてみると、こんなのは初めてだという。いつもなら十一月に降った雪が根雪になり、道路脇にはよけた雪が一メートルくらいの高さになって壁を作っているはずだが、この冬は雪がほとんど降らず、二月はまったく雪が降らなかったそうだ。
「東京で雪が降って大騒ぎになっていたけど、東京で雪が降った日でも大曲はまったく雪が降らないんだから」
地元のおじさんは不思議そうに首を捻る。
雪かきをしなくていいので楽だが、雪がなかったことなどないのでなにか悪影響が出るのではないかと不安もある。農家は田畑をあまり休ませられなかったので心配しているのだそうだ。
まったく不思議なこともあるものだと狐につままれたような想いで大曲を後にした。