人生の達人
このエッセイの第277話『人間、色を忘れてはいけない』で紹介した広州在住のおじいちゃんが日本へ帰ってこられた。
二十三年間、広東省広州で仕事をして、八〇歳になったのを気に引退することにしたそうだ。八〇歳まで外国で仕事をするなんてすごい。
広州時代の仲間が集まっておじいちゃんを囲む会を開くことになったので僕も参加した。
おじいちゃんは十年前とちっとも変わっていない。頰の肌もつやつやしている。足腰もしっかりしていて駅の階段もさっさと上がってしまう。日本へ帰ってきてからは、週二回、近所のゴルフ練習場へ行って三〇〇球ほど打つのだとか。そんなに運動して膝や腰が痛くならないのかと思うけど、まったく平気らしい。おじいちゃんを囲んで、おじいちゃんとの再会を祝いながらみなさんで楽しく飲んだ。
一次会が終わってから、カラオケボックスへ行くことになった。
カラオケ店の受付で申し込みをしていると、
「女の子はいないのか。カッカッカ」
と、おじいちゃんは受付の女の子に言って楽しそうに笑う。
「ここは広州じゃないんですから」
とみんなが言っても、
「そうか。つまらんな。カッカッカ」
と嬉しそうだ。
なんでも楽しむ。いつでも楽しむ。なにかあってもほがらかに笑い飛ばしてストレスをためない。人生の達人だ。
人生は楽しまなくっちゃなと、おじいちゃんと十年振りくらいに話をしてつくづく感じた。