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フグの毒
僕が小学生の時、親父がフグをまるごと一匹買ってきたことがあった。フグは肝臓や卵巣に猛毒を持っていたりするので調理していないフグを販売してはいけないのだが、なぜか売っていたようだ。
フグをさばく親父は、いい酒の肴が手に入ったとうきうきしていた。
親父は取り出したフグの肝を指差し、
「触ったらあかんで。猛毒や。死ぬかもしれへん」
と僕を脅す。
こわくなった僕は台所から逃げ出した。
酒を飲みながらゆっくりフグ鍋を味わった親父は、
「ちょっと失敗やったな。内臓を出した後は包丁をちゃんと洗っておかんとあかんな。フグの毒が身についてしもてた。毒のせいで唇と舌がぴりぴりするわ。まあ、このぴりぴりするのもええ感じなんやけどな」
とのたまう。
僕はまた怖くなって逃げた。
厚生労働省の統計によれば、素人家庭フグ料理で毎年十数件から二十数件のフグ中毒が発生しているとのことです。死者が出ることもあるようです。危険ですので、真似をしないでください。