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恐ろしい女の第六感


 中国のとある町へ出張へ行った時のこと。

 夜、一緒に出張へ行った中国人スタッフと食事して、ホテルの部屋へ帰った。九時半くらいだった。結婚してからというもの、僕はすっかり更生して悪い遊びをやらなくなったのだけど、その日はなぜか急にムラムラしてきて、一人でいけないマッサージへ行きたくなった。

 まず奥さんへフェイスタイムをかけた。早めに今日のフェイスタイムを終わらせ、それから外出しようと思ったのだ。奥さんは風邪気味だという。

「薬は飲んだの? 早く寝た方がいいよ」

 僕はやさしく奥さんへ語りかける。すると、

「あなたどうしたの? おかしいわよ。変な遊びをしようと思っているでしょう」

 と、いきなり興奮して僕を責め始めた。さっきまで風邪でだるそうにしていたのが、打って変わって元気になった。

「そんなことないよ」

「それじゃなんでこんな早い時間にフェイスタイムをかけてくるのよ」

「早いたってもう九時半だよ。今日は朝が早かったし、出張先でいろいろ仕事をして疲れているから、早く寝ようと思っただけだよ」

「おかしい、おかしい、絶対におかしい。あなたはエロい目つきをしてるわ」

「ええー、そんなことないったら」

 僕が奥さんを早く寝かしつけようとあせるごとに、奥さんは僕の背中に羽が生えているのが見えるなどといって僕を罵る。なんとかなだめてようやくフェイスタイムを切ることができそうになったのだが、

「シャワーを浴びたら、もう一度、わたしにフェイスタイムをかけなさい。外へ遊びに行っちゃだめよ」

 と奥さんは言う。僕はしぶしぶ承知した。

 気分の盛り下がってしまった僕は、遊びに出かける気力をなくした。退屈だなと思いながら退屈な本を読み、シャワーを浴びて奥さんへまたフェイスタイムをかけた。奥さんはふくれっ面をした僕を見て満足そうにほほえむ。

「あら、すっかりおとなしくなったわねえ」

「もう寝るよ」

 僕はぶすっと言った。

「このぶんなら、大丈夫そうね。寝てもいいわよ」

 勝ち誇った顔をした奥さんはバイバイと手を振る。僕はさっさとフェイスタイムを切って不貞寝した。


 またある時、出張先の広州で仕事の打ち上げがあった。白酒をしこたま飲んで意気のあがった中国人スタッフたちがどうしてもカラオケクラブへ行きたいという。僕は酔っぱらってふらふらだったし疲れていたからさっさとホテルへ戻って眠りたかったけど、付き合わないわけにもいかないのでしかたなくついていった。奥さんにはスタッフと串焼き屋へ行って二次会をやるから遅くなると言ってごまかしておいた。

 すると翌朝、奥さんはGPSの位置情報のスクリーンショットをスマホで送ってきた。GPSの地図には〇〇カラオケとばっちり表示してある。

「ゆうべの十二時にこのカラオケクラブにいたんでしょ」

 奥さんはウィチャット(中国版LINE)でそう書いて寄越す。

「あなたは出張でいないし、なんだか眠れないし、ひまで退屈だから、五分ごとにGPSを見てたわよ」

 僕がカラオケクラブいた時ではなく、翌朝証拠を突きつけるところがミソだ。夜、カラオケにいた時なら、「これも仕事だからしかたないだろ」と開き直るところだけど、飲み疲れて、歌い疲れて、おまけに睡眠不足だから、開き直る元気もない。

「ネットでその店を調べたんだけど、そこのカラオケクラブは女の子がなんでもサービスしてくれるところみたいね。なにをしてもらったの?」

 奥さんは畳みかけてくる。

「なんにもしてないよ。ただ歌っただけだよ」

 僕はそう返信した。

「嘘ばっかり、女の子が隣についたんでしょ」

「つけなかったよ。要らないもん」

「なにをしたの? 太ももを触ったの? 腰を抱いたの?」

「そんなことしてないってば」

 実際、僕はくたびれていたから、はしゃいで騒ぐどころではなかった。

 上海へ帰ってから真綿で締めつけるような尋問を二時間ほど受けたけど、奥さんはそれ以上僕を追及しなかった。週末にショッピングモールへ連れて行って服を買ってあげたら、それですっかり機嫌が直った。やれやれだ。


 それにしても、すごい勘だなあと感心してしまう。浮気につながる芽はぜんぶ摘んでしまうと勢い込んでいるから、勘が働くのだろうか。普通に居酒屋で飲んでいるときはなにも言ってこないのに、ごくたまに夜遊びへ出かける(あるいは出かけようとする)とすぐにかぎつける。

 女の第六感はあなどれないというければ、こうなると第六感を通り越して、超能力でも持っているんじゃないかと疑りたくもなる。もっとも、そのエネルギーをべつのことに振り向けたほうが、人生にとってもっと有益ななにかをできるような気がしないでもないのだが。


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