婦人節のカツアゲ
三月八日は中国の婦人節だった。国際婦人(女性)デーに合わせて、中国でもこの日を婦人節としてお祝いごとをするようだ。勤め先では、女性社員は半休になり、工会(労働組合のような組織)が女性社員に花束を配ったりしていた。女の子たちは大喜びで事務所のなかはえらく盛り上がっていた。
僕は出張先の空港でお菓子を買い、家へ帰ってから上海人の奥さんに渡した。婦人節のささやかなプレゼントなのだけど、奥さんは、
「それだけなの?」
といたく不満そうな顔をする。
「よその家はみんな旦那さんが奥さんへ御祝儀を渡すのよ」
「え? 御祝儀?」
「そうよ。ウィチャットで御祝儀を渡すのよ」
中国版LINEのウィチャットには祝儀袋(中国語では紅包という)を渡す機能がある。みんなそれで奥さんに祝儀を渡すのだとか。
「お菓子を買ってきてあげたじゃない」
「よその家はみんなご祝儀を渡しているのよ」
どうしても御祝儀をもらわなければ気が済まないようだ。
「国際婦人デーは女性の社会進出や地位向上のための日であって、御祝儀を渡す日ではないんだけどな」
と僕が言うと、
「だから、御祝儀を頂戴って言っているのよ。わたしにすれば、女性の地位向上と御祝儀をもらうのは同じことなのよ」
と奥さんは言う。
しかたがないので、よくわからない理屈だなと思いながらなけなしの百元札を数枚出して奥さんへ渡した。こうして僕は家庭内でカツアゲされてしまった。僕にしてみれば婦人カツアゲデーだ。
中国の女は強い。とくに上海はめちゃくちゃ強い。婦人節は廃止して、かわりに男性の地位向上を目指す日を設けたほうがいいと思うのだけど。




