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人柄がいいのです


 もう何年も前に広東省広州で採用面接をした時のこと。

 午後いっぱいかけて八人くらいの応募者を次から次へと面接した。今はもう内陸部が発展して地元で仕事を探す人が多いから、広東省では人集めに苦労して履歴書すらなかなかこなかったりするけど、当時は募集をかけるとすぐに人がたくさん集まった。

 そのなかに近所の工場から応募してくれた男性がいた。歳は三十過ぎくらい。東北出身でひょろりと背の高い人だった。学校を出てからずっと広東省で働いており、広州で結婚して、家も広州にあるという。

 彼はなにを聞いてもニコニコしている。朴訥そうな人だ。

「あなたの長所と短所をあげてください」

 と質問すると、

「長所は人柄がいいことです」

 とこれまたニコニコと答える。

 ――人柄ときたか。微妙な答えを返してくるな。

 僕は心のなかで思いながら、

「これが得意といったことはありますか?」

 と訊いた。採用面接なので、こちらとしては仕事に活かせるなにかを聞きたい。彼は今やっている工場の生産管理なら一通りできますといったことを淡々と答える。短所は特にないという。

 志望動機を訊くと、給料のいいところへ行きたいからとのことだった。他に動機はありませんかと訊いても首をひねるだけで、他の理由はないそうだ。給料のいいところへ行きたいのは誰でもそうなのだけど、それだけでは困ってしまう。結局のところ、給料さえよければどこでもいいということなので、往々にして長続きしない。

 面接の終わりに彼は、

「とにかく僕は人柄がいいんです。みんなにいい性格だねっていつもほめられるんですよ」

 と自分の人柄のよさを再びアピールして去って行った。

 募集していた職は結構シビアな仕事だったので、彼にはあわないなと思った。一緒に面接に立ち会ってくれた若いスタッフたちにどう思うかと聞くと、

「のんびりしすぎていて、自分から積極的に仕事をするタイプではない」

 との意見が返ってきた。よく人を見ている。

 彼は飾らない人柄でまわりから好かれるのだろう。面接の受け答えも素朴そのものだった。面接ではどれだけ自分が仕事をできるかを証明しようとしてがんばるものだけど、そういうことは一切なかった。ただ、友人関係ならそれでいいのだけど、仕事となればそうもいかない。やはり、採用は見送ることにした。

 面接をするといろんな人に会うけど、「人柄がよい」のを正面に掲げてアピールされたのは、後にも先にもこれ一回だったのでなぜか印象に残っている。



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