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落ちるシャッター


 勤め先では倉庫のシャッターが時々落ちた。

 倉庫の出入口に取り付けたモーター付の自動巻き上げ式のシャッターだ。わりと広い倉庫なのでシャッターが十数台ある。危ないったらありゃしない。ひと巻きのシャッターがまるごと、人の一メートル横にどすんと落ちたこともあった。頭の上に落ちでもしたら、たいへんだ。あんな重いものに人間が耐えられるわけがない。下手をすれば死者が出てしまうかもしれない。

 以前、倉庫のシャッターのメンテナンスは別の部門の別の課長が担当していたのだけど、そいつが悪党でひどいことをしていた。メンテナンスの時期になると、自分の息のかかった業者にメンテナンスをさせる。ところが、その業者はシャッターの点検や修理の技術がない。下からちょっと見上げて、棒でシャッターをつっつき、シャッターの両サイドの溝にグリースを塗ってそれでおしまいだった。料金はかなり高い。そのぶん、業者からキックバックをたっぷりもらっていたに違いない。

 そんなものだから、シャッターは壊れっぱなしだった。ひどいときには、悪党の使っている業者が点検の際に棒でシャッターをつっついて壊してしまい、挙句の果てはその修理代金まで取られそうになったことがあった。悪党にしてみれば、そのほうが都合がいい。壊れれば壊れるほど、修理代のキックバックを得られるからだ。悪党はキックバックをもらうことが目的だから、きちんと修理して使えるようにしようという気はさらさらなかった。

 シャッターは落ちるし、壊れたシャッターは夜、開けっぱなしたままだ。いくら警備員がいるといっても、これでは泥棒にいらっしゃいと言っているようなものだった。あまりにもやばすぎるので、悪党からシャッターメンテナンスの権限を横取りして、僕のチームでメンテナンスすることにした。僕の下には、現場上がりのやんちゃな係長がいる。やんちゃだからゴン太君としておこう。ゴン太君は広東省の海辺の漁村で育った。中学を出てから現場一筋で叩き上げた係長だ。馬力がある。

 ゴン太君がいろいろと業者を探して、シャッター製造工場のメンテナンス部門の担当者にきてもった。新しい業者が点検したところ、あちらこちらで不具合箇所が見つかった。取り付け部分の金具がすっかり錆びてぐらぐらしているところもあれば、溶接が取れてしまったところもある。ひどい位置ずれを起こしているところもある。シャッターの開閉を繰り返すうちに斜めに巻き上がるようになってしまい、そのせいで軸がねじ切れそうになっているものもある。約半分のシャッターに重大な問題があった。予想はしていたけど、かなりひどい。よく今までけが人が出なかったものだ。

「ボス、悪党はほんとにひどいよ」

 ゴン太君はやれやれと首を振る。

「まったくなあ。あいつはキックバックをもらうだけだったからな」

 僕はぼやいた。

「ボス、でもさ、今度の業者は料金は三分の二ですむよ。安いし、ちゃんと仕事をしてくれる」

 ゴン太君が修理の手配をして、シャッターの問題はひとまず解決した。職人気質のゴン太君は仕事がうまくいって満足してた。

 新しい業者に定期的に点検してもらい、まめにメンテナンスすることにした。万が一に備えて、各シャッターの両脇に鉄柵を取りつけ、シャッターが脱落したとしてもその鉄柵で受け止め、地面へ落ちないように対策を施した。

 悪党はそのうち会社を首になり、我々を邪魔することもなくなった。全社に向けて我々の悪口を書いたメールを流されたりして、えらく迷惑したものだった。裏の利権を取り上げられれば、それくらいの仕返しは当然するだろうけど。悪口くらいですんでよかたともいえる。

 シャッターの状態はずいぶんよくなったのだけど、いくらこまめに修理してもやはり故障が出る。案の定、シャッターが脱落して鉄柵で受け止めたこともあった。

「やっぱり、シャッターそのものの質が悪いんだな」

 僕はゴン太君に言った。

「ボス、もう古いもの」

「古いっていってもまだ五年だけどねえ」

「業者は新しいのに交換したほうがいいって言ってるよ」

「そうしたいのはやまやまだけど、経費がかかりすぎるからむつかしいな。会社の認可が下りないよ」

 中国は基本的に「安かろう、悪かろう」で間に合わせる。だから、シャッターも取りつけてから五年しかたっていないのにぼろぼろになって修理が追いつかなくなる。シャッターだけではなく、基本的に建物は五年も経てばかなりぼろぼろになってガタがくる。メンテナンスに手間をかけるのは嫌だから、いい品物を使ってしっかり作っておこうという発想もあまりない。目先のコストが最優先になって、結局「安かろう、悪かろう」の製品を使ってしまう。

 点検するのも手間だし、修理するのも手間がかかる。その分の力をほかに使えば、いろんなことをもっとよくできる。いつまでも「安かろう、悪かろう」路線を続けるわけにもいかないとは思うのだが。

 


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