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あなたも戦争へ行くの?


 大陸中国でも日本の改憲についてのニュースがよく流れる。かつて中国は日本に攻め込まれ、十五年間も本土決戦をやった。日本を警戒するのは当然だろう。

 日本にも中国にも、戦争をやりたくてうずうずしている人がいて、相手をやっつけろと騒ぎ立てるから困ったものだ。人を殺すことは正義ではない。戦争をしたい連中は、自分の利権や出世のために声高に欺瞞を叫ぶ。彼らは戦争になっても前線へは行かない。後方の安全地帯にいて、金儲けをしたり、裏の利権をむさぼったり、勲章をもらって悦に入る。前線へ行って悲惨な目に遭うのはごく真面目に暮らす人々だ。

「日本の憲法が改正されたら、徴兵制になるの?」

 テレビのニュースを見ながら上海人の家内が僕に訊く。

「ゆくゆくはそうなるかもね」

「そうよね」

 家内は中国人だから、政府というものを信用しない。一般的に中国人は、政府を自分たちを脅かす恐ろしいものとしてとらえる。まるで怪獣モンスター扱いだが、その考えは間違ってはいない。政府というものは基本的に為政者や特権階級のためのものであって庶民のためのものではないからだ。それは日本も同じことだ。

「いずれ日本の自衛隊はアメリカの戦争のために本格的に駆り出されることになる。アメリカは戦争がしたいけど、もうお金がないから、自分たちの戦争のために自衛隊を使いたいと考えている。中東やアフリカあたりへ行って、アメリカの利権を守るための戦争をすることになるんだろうね」

「日本はアメリカの言うことは聞かないといけないのよね」

「属国だからね。最初は暮らしに困っている人たちが兵隊になって戦争へ行く。それでも数が足りなかったら、徴兵制にして兵隊を増やそうとするだろうね」

「あなたも戦争へ行くの?」

 家内は真剣なまなざしで僕を見る。

「このまま戦争への流れがとまらなかったら、その可能性がないとはいえない。もっとも、僕のような中年が徴兵されるのは戦争がよほど長引いた時だけどね」

 僕たちはふと黙りこんだ。日本と中国が戦争することになったらどうなるのだろうと心配になる。最悪の場合、日中戦争になって僕が兵隊に取られたりすれば、僕は銃を取って妻の国と戦うことになる。考えたくもない事態だ。

 全面戦争にならなくとも、例の島をめぐって軍事衝突や軍事紛争が起きるくらいならあるかもしれない。そうなれば中国の世間は反日一色で染まるだろう。僕は中国にいられない。家内も日本では暮らせない。

「もし日本と中国が戦争をすることになったら、日本でも中国でもないところへ行って暮らすしかないね」

 僕は言った。家内も「そうね」とうなずいた。

 日本は七十年以上、どの国とも戦争をしていない。昔のように日本が戦争をしていたら、中国で十数年も暮らして、この地でいろんな人たちと出会うことなんてできなかっただろう。いろんなことができるのは、平和のおかげなんだなと改めて思った。


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