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日本を祖国と呼ぶ台湾元総統 ~帝国の原理


 九月三日、大陸中国では抗日戦争の戦勝七〇周年を祝い、北京で軍事パレードを催すのをはじめとして、各地で抗日式典を開く。九月三日は法定休日となった。

 大陸と同様に台湾でも戦勝七十周年の抗日式典を開くことになったのだが、これに反対を唱えたのが、李登輝元台湾総統だ。

「第二次世界大戦当時、台湾は日本の植民地だったのであり、日本と一緒に戦った。台湾が抗日戦争をした事実はない」というのが李元総統の主張の骨子だ。しかも、彼は日本を祖国とまで呼ぶ。

 上海で大陸のテレビ放送を見ていると、李元総統へのバッシングをやっていた。ニュースキャスターが「彼はなぜそんな世迷言を言うのか、まったく信じられません」と言い放ち、どこかの学者が「彼の発言は台湾人の大きな憤りを買っている」などと怒ってみせる。大陸中国の立場としてはそうなるのだろう。大陸中国からすれば、台湾は奪い取られた領土だ。その台湾が日本と一緒に本家の大陸中国へ弓を引いていたとなれば、台湾は大陸中国の一部だという主張が崩れてしまう。引いては、台湾独立論を認めることにもつながる。

 実を言えば、李元総統は元「日本人」だ。大日本帝国統治下の台湾の客家の家庭に生まれ、その後は日本名を名乗り、京都帝国大学へ進学した。国籍は大日本帝国籍。日本人として自己のアイデンティティを形成した。李登輝元総統の心は今でも「日本人」のままだから、「日本は祖国」という発言が出てくる。李登輝元総統は「日本びいき」なのではない。「日本人」なのだ。


 帝国は異なる民族を包摂することで成立する。そして、帝国の「中心」に位置する力を持った民族が「周辺」の民族を同化してしまう。

 僕が中国辺境の雲南省で留学していた頃、どう見ても少数民族なのに「私は漢族だ」と出張する人に何度も出くわした(雲南省は中国と東南アジアの潮目のようなところで二十五の少数民族が暮らしている)。中国ではやはり漢族のステータスがいちばん高い。中華人民共和国は実のところ大漢帝国だ。それだものだから、雲南省の「周辺」の少数民族は漢民族に憧れ、自分は漢民族だと主張するのだ。これももちろん、「中央」の民族による「周辺」の民族の同化のいい例だ。

 若き日の李登輝元総統にも、この帝国による異民族同化の原理が働いた。若い頃から日本の思想や文学に親しみ、老いては新渡戸稲造の『武士道』に関する本を執筆したり、奥の細道をめぐる旅へ出かけたりしたくらいだから、よほど日本にあこがれたのだろう。それは後藤新平たちの先人が雛鳥を育てるようにして台湾に投資して育成した成果であるわけだが。

 台湾では、日本統治下に育った老人たちが、山の公園で日本語を使って楽しくおしゃべりをする光景も見られたという。彼らも李登輝元総統と同じように、日本人としてのアイデンティティを獲得した人々だったのかもしれない。

 李登輝元総統の発言をみて、日本は昔、確かに「帝国」だったのだなと、そんなことをぼんやり考えてみたりした。


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