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天津危険品倉庫大爆発事故について

 天津の港で大爆発があった。

 危険品倉庫で化学薬品が燃え、それが爆発したのだ。爆発時には大きなキノコ雲が舞い上がり、半径数キロ圏内に甚大な被害が出た。爆発は、TNT火薬にして二十一トン分の威力があったという。一帯は空襲の後のようだ。恐ろしい。日本でも報道されていたようだから、このニュースを見た人も多いだろう。

 事故があったのは、天津市の中心部から五十キロ離れたところにある工業開発区だ。事故現場から数キロ離れたところに一汽トヨタの工場があり、その周りにトヨタ系の部品メーカー工場が集まっている。

 事故のあった港へは行ったことがないが、工業開発区には仕事で何度も行った。開発区の中心はきれいに整備されているけど、その周囲は荒れた感じのする街だ。治安も悪い。

 事故から二日過ぎた時点で政府は死者五〇数名と公表しているが、爆発の規模や周辺にマンション群があることから考えて、おそらく、このデータはあまりにも少なすぎるだろう。中国のネットでは、武装警察が二三百の死体を処理した、消防隊だけでも百人以上が亡くなっているなどといろんな情報が飛び交っている。行方不明者の数が公表されていないのも妙だ。このような大きな事故は政府がなにかと隠したがるものだから、真相がわかるのはずっと先のことになるかもしれない。

 事故のニュースを集めながら、ふと思い出したことがあった。

 数年前、天津の工業開発区で同業者の会議に出席した。僕の隣には同業他社の天津支社の副総経理(副社長)のおじさんが坐った。名刺を交換して挨拶をすると、そのおじさんは話を聞いてほしくてたまらないという風に訴えかけてくる。

「私はもう中国にいたくありません。私は以前アメリカに十年ほど駐在して、今と同じ仕事をしてきました。アメリカでは教育すればレベルを保つことができたのに、中国では教育してもそれがまったく通じません。どうして教育の成果がまったく出ないのか、私には理解できません。本社のほうには早く日本へ戻してくれと何度もかけあったのですが、帰れそうにもありません。私はあと二年で定年です。定年までここにいないといけないのかと思うと、なんだかもうたまりません」

 おじさんは、ふうと大きなため息をつく。精神的にかなり参っているようだった。なんとも気の毒な姿だった。

 一口に中国といっても、各地方によって気質が違う。南のほうでは、教育すればまじめに聞いて、ある程度きちんとやってくれる。しかし、天津の開発区はなかなかむつかしいところだ。「教育の効果が現れない」――つまり、教育した内容を無視して手前勝手にやってしまうというのは、僕も天津で何度か経験したことがある。教えてやってみせても、その場を離れてしまうと、すぐに自分流のやり方にもどしてしまうのだ。品質は上がらないし、危険だ。

「なにを聞いておったのだ」と詰問したくなるけど、相手ははなから人の話を聞く気などない。向上心はないし、それがないからレベルが低い。同じ会社の広東省では当たり前にできていることが、天津ではなかなかできなかったりする。もちろん、なかには真面目に仕事に取り組む人もいるけど、全体的にいえば、かなり荒っぽい人が多い。

 天津の開発区は荒れ果てた気風でどこかしらただれたようなところだというのを肌で感じていたから、大爆発事故のニュースを聞いたときも、あの場所ならありそうだなと不思議に思わなかった。爆発のあったとされる危険品倉庫では、危険品の取り扱い規定を無視して違法作業を行い、適当なことをやっていたのだろう。管理者もろくに管理していなかったに違いない。今回の大爆発事故を起こした倉庫は、以前からちょくちょく火災などの事故を起こしていたようだ。

 ただ、事故を起こした当事者たちだけを責めればいいかといえば、そうはいかないと思う。安全軽視は中国の国民性でもあるからだ。

 中国国営放送の報道番組で事故の特集をしていた。爆発から一日半経った現場では、あちらこちらでくすぶり続け、まだ荷物が燃えているコンテナもあった。化学品だけに消火が厄介だ。危険品消防の専門家が現場を見て回り、「ここは土をかけたほうがいい、雨が降って化学反応を起こされると危険だから」などと消防隊へアドバイスしている姿を放映する。ふと画面が変わり、若い女性レポーターが爆心地へずかずかと入りこみ、「ここが爆発の中心です」などとレポートする模様が映った。事故現場はテープで囲って見張りをつけて、消防隊や関係者以外は立ち入り禁止にしなくちゃいけないはずだけどな。きちんと現場を保全して、専門家が綿密に検証できるようにしなければいけないのに。中国での日々の仕事で痛感することだけど、やはり、安全に対する意識が低すぎるのだろう。

 テレビレポーターが爆心地に突っ立っている姿が、すべてを物語っているような気がした。


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