広がるばかりの格差in中国
毎年、夏と冬にボーナスの考課をつけ、春には定期昇給の考課をつける。勤め先は日系企業なので、賞与も定期昇給も日本の風習に従っている。ローカルの中国企業の場合、賞与はなしで、そのかわりに十二月に「ダブルペイ」という形で二か月分の給与を支払って賞与にかえているところもあるし、逆に羽振りのいいところだと、夏、中秋節、春節前の三回もボーナスを支給するような企業もある。
考課をつけると、人事課から各スタッフの賞与や給与の金額を記入した一覧表が送られてくる。その一覧表をみるたびに困惑してしまう。
学校を出て二三年目の若い社員と三十歳前後の係長の給与の差は、二倍強から三倍弱。それも、この格差は毎年広がるばかりだ。もちろん、係長はそれなりのスキルとやる気のある人物がなっているし、それだけ負担の重い仕事をこなしてもらっている。が、それにしても、この差は広がりすぎだ。
どうしてこんな事態が生じるのかといえば、初任給の金額が抑えられているのに対して、スキルを持った社員がよそへ行かないように係長クラスへは手厚く給与を支給していることが一つの原因としてあげられる。もちろん、課長クラスと一般社員を比べれば、この格差はもっと広がる。
中国の私営企業では、一般的に「ジョブ・ホップ(転職)」しないと給与がぽんと上がらない仕組みが取られている。役職へつけば、給与がかなり上がるが、役職が上がらない場合は上昇幅は低い。誰もが係長や課長になれるわけではないから、「この会社にいても芽はなさそうだな」と思えば、みんな転職してしまう。そして、転職先でいい待遇をつかむ。
初任給に関していえば、大卒の場合、広州では三〇〇〇元程度で、上海では約三五〇〇元といったところが平均的な相場だ。この水準は十年ほどあまり変わっていない。この間に中国の物価はかなり上昇しているから、若者たちの生活はそれだけ苦しくなっていると言える。
企業の利潤は労働から生じる。社員が働かなければ利潤は生まれない。資本側はこれがわかっているから、立場の弱い社員からできるだけ搾り取ろうとする。つまり、若い人たちがそのターゲットになり、彼らの給与が低く抑えられることになる。
誰だって、いつまでも初任給に毛が生えたほどの給料で働いていたくはない。生活がかかっている。いくら夫婦共働きが当たり前の国といっても、それだけの給料で結婚して子供を養うのは厳しい。この会社である程度勉強できたかなと思えば、待遇のよいところへ転職しようとする。
こうなると今度は現場の方が困ってしまう。
若い人が仕事を覚えたかなと思うと転職するので、また若い新人を雇い入れることになる。そして、再び一から仕事を教え、また仕事を覚えた頃にその人はどこかへ去ってしまう。誰でもできる単純な手作業ならまだいいが、すこし複雑な仕事となれば、熟練スタッフがいなければ仕事が回らない。中国はかなり発展したから、これからは複雑なことをしっかりこなさなければならないというのに、スタッフがある程度定着しなければ、いつまでたってもレベルが上がらない。しかし、社会の仕組みとしては、スタッフが安心して定着できるようにはなっていない。
これからどうなるのかなと思うのではあるけど、格差を是正するための基盤となるものが見当たらない。おそらくこれからも格差は開き続け、やがては貧困を再生産するようになるのだろう。




