プチ整形
上海の地下鉄に乗っているとはっと人目を引くような美女を目にすることがある。芸能人のような華やかな美人だ。
「あなた、誰を見てるのよ!」
こんな時はたいてい上海人の奥さんに叱られてしまう。ちょっときれいだったり、かわいかったりする女の子がいるとついつい見てしまうのだけど、奥さんによれば、こんなことをするのは日本人だけで、中国人はしないのだそうだ。とくに上海人の男性は絶対にしないという。上海人の男は、脇見もできないくらいそれだけしっかり尻に敷かれているということなんだろうけど。
「まったく島国の人間はいやらしいんだから」
と奥さんは僕をにらみつける。
「ねえ、あの子だけど、ちょっとおかしくないか。不自然だよ」
僕がその美人のほうを見ながら言うと、
「そうねえ」
と、奥さんは興味津々に整形美人をじろじろ見つめる。
「まぶたも、ほほも、鼻も、あごも、全部整形しているわね。ほら、二の腕も整形しているわ。全身整形ね」
「きれいなのはきれいだけど、なんかちょっと違うよね」
「わたしも整形した~い。こうやって、鼻を細く高くするの」
奥さんは鼻をつまむ。
「だめ。神様がくださった顔なんだからさ。それに、僕は毎日不自然な顔をおがみたくないよ」
きれいになりたいのはわかるけどね。
先日、奥さんと美容室へ行ったら、いつも髪を切ってくれる女の美容師さんと奥さんが盛り上がっていた。
「ねえねえ、あの子は整形したのよ」
「え? ほんと?」
「目が二重になってぱっちりしていたでしょ。目の細い子だったのに。わたしはすぐに気づいて、整形したのって訊いたら、彼女は楽しそうに喜んだわ」
「全然気が付かなかったよ」
僕も髪を切ってもらったのだけど、まったくわからなかった。
「九千元(約十八万円)もしたんだって」
「目だけで」
「そうよ」
「ずいぶんいい値段がするんだね」
「わたしの知り合いの整形外科医なら六千元でできるから、今度紹介してあげるって言ったの」
「美容師さんはほかのところも整形するつもりなの?」
「こんどは鼻をやりたいんだって」
「あの美容師さんもそのうち芸能人みたいな人造美人になっちゃうかもね」
「わたしもした~い」
「だめ」
中国でも整形する人が増えていると聞いていたけど、身近なところにもいるのだなと思った。




