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なぜか上海


 広東を去った僕は飛行機に乗って上海へ向かった。

 新しい生活を上海で始める。

 夜遅く上海虹橋空港に着き、タクシーを拾って上海郊外にある彼女の家へ向かった。これから上海人の彼女と彼女のお母さんと三人で暮らす。上海でマスオさんをするわけだ。国際結婚の手続きをして(これがけっこうややこしい)、三月に結婚式を挙げる予定でいる。今まで勝手気儘に暮らしてきたけど、僕もようやく年貢を納める。彼女は僕より半年だけお姉さんだ。学年でいえば同学年になる。おたがいにいい歳なので、結婚式は身内だけで祝ってもらうことにする。

 仕事のほうは、幸い、今の勤め先が上海支社勤務を勧めてくれたので、ありがたくお受けすることにした。仕事の心配をしなくてもすんだ。助かった。


 上海で暮らすことになるとは自分でもまったく予想していなかったし、上海で暮らしたいと思ったこともなかった。上海は出張でたまに行く程度でそれほど縁のある場所でもなかった。知人に彼女を紹介していただいた時は上海人の友達ができれば上海で遊びに行くところができるかなというくらいの簡単な気持ちで会ったのだけど、気が合ってトントン拍子で結婚することになった。御縁があるというのは、こういうことなのかなと思ったりする。彼女は上海生まれの上海育ち。豫園という市の中心部にある観光名所のそばで育った。上海の下町っ子だ。東京でいえば、さしずめ浅草育ちといったところだろうか。彼女は仕事や家族の関係で上海を離れることはできない。僕は流浪の暮らしをしているから、どこにいてもかまわない。それで僕が上海へ行くことにした。


 僕が初めて中国へきたのは、二〇〇一年のことだった。足かけ一年間ほど中国の西南地域で放浪の旅をして、それから雲南省昆明で三年間留学して、広州で六年働いて、日本と中国をいったりきたりしながらこれまで合計で十年ほど中国にいた。そして、これから上海で中国人の家庭のなかへどっぷり入って暮らすことになる。

 流されるままに流れているような、どこかへ導かれているような不思議な気分。なぜか上海。


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