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五十歩百歩

 パワーポイントで作ったプレゼンテーション用の資料をPDFファイルにしてもらうことにした。

 僕のパソコンには変換ソフトが入っていないので、コンピューターにやたらと強い日本人スタッフにお願いしようとしたのだけど、あいにく彼は出張中だった。そこで、そのソフトを持っている中国人スタッフに頼んでPDFファイルに変換してもらった。彼女は快く引き受けてくれてすぐにやってくれたのだけど、いつもならPDFファイルへ変換すればサイズが小さくなるはずなのに、逆にかなり大きくなってしまった。メールで送る手はずだったので、困った。しかたがないので、パワーポイントのファイルを四パートに分割し、それぞれのファイルをPDFにしてもらった。

「あのさ、王さんにPDFファイルにしてもらったんだけど、サイズが大きくなっちゃったんだよね。六メガが九メガになったんだよ。どうしてだろう?」

 僕は不思議だったので、戻ってきた彼になにげなく訊いた。

「俺ならちゃんと小さくできますよ」

 威勢のいい答えが質問と違う方角から返ってきた。どうやら自慢したいらしい。

「それって、裏技を知っているってこと?」

「技は関係ないです。やつらはろくなソフトを持っていないんすよ。だから、サイズが大きくなるんです」

 彼は勝ち誇ったように言う。いまにもガハハと笑い出しそうだ。

「彼らは海賊版を使っているんだ」

 なるほどと僕は思った。ありがちというか、中国では当たり前のことだ。

「俺のも海賊版っすよ」

 彼はさらりと言う。ここで驚いてはいけない。中国の会社は平気で海賊版のソフトを使う。日系企業の現地法人も例外ではない。以前勤めていた会社のパソコンはOSでさえ海賊版だった。

「でも、俺のは本物のソフトの海賊版なんです。やつらはわけのわからないソフトの海賊版をそこいらからダウンロードして使っているから、あれじゃだめっすよ。俺が持ってる海賊版ソフトの機能は本物とまったくいっしょなんです。だから、きちんと圧縮をかけて、ファイルのサイズを小さくできるんですよ」

「本物の海賊版って、つまり○○ビのソフトってわけか」

「そうっすよ。できる男は、ホンモノの海賊版を持っているんですっ!」

 どんなもだい、と彼の顔に書いてある。できる男と言うけど、「できるハッカー」と言ったほうがいいんじゃないだろうか?

 彼は、ホンモノの海賊版を手に入れることにプライドをかけている。中国には海賊版を無料ダウンロードできるサイトがたくさんあるから、彼にしてみれば、そんな誰でもできる簡単な方法で入手した海賊版ソフトなんてゴミみたいなものなのかもしれない。だけど、いずれにしても海賊版だ。五十歩百歩だと思うんだけどなあ。

 



ちなみに、日本語では「五十歩百歩」と言いますが、中国語では「五十歩笑百歩」――つまり、「五十歩が百歩を笑う」と「五十歩」と「百歩」の間に「笑う」という動詞が入っています。中国語豆知識でした。

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