過酷な中国駐在1 ~四人に一人が鬱~
ショックなニュースを読んだ。
ある調査によれば、在中日本人のうち四人に一人は抑鬱状態に陥っているのだという。鬱になった理由としては中国人の同僚や部下とうまくコミュニケーションがとれなくて文化や習慣の違いに途惑っていることや、本社が現地の事情を理解してくれなくて困っていることなどが多いという。
鬱病に罹る日本人は多いが、さすがに日本でも四人が一人は鬱病ということはないだろう。この調査は駐在員に限ったものではないが、在中日本人の多くは日本の企業から派遣された駐在員とその家族だ。いかに中国の駐在生活が過酷なのかをデータが証明している。
鬱病なのだろうなという人に出会ったことがある。
同業者の集まりで御一緒したある駐在員の方は見るからに元気がなかった。有名企業の五十代後半の方だった。
名刺を交換したあと、
「中国はどれくらいいらっしゃるのですか?」
と僕がお決まりの文句で問いかけると、
「いや、もう一年くらいになりますが――」
とそのおじさんは早く日本へ帰りたくてたまらないといったことを彼からみれば若造の僕に憐れっぽく訴えかけた。話しを聞いて欲しくてしょうがないといった感じだ。その方は中国が肌に合わないからこの国にいるだけでつらいという。
「私はアメリカに十年ほど駐在して今と同じ仕事をしていました。外国は慣れているつもりだったのですけど、中国はまったく理解できません。社員を教育してもまったく効果がないのです。会社として一生懸命教育しているのになぜ言うことを聞こうとしないのか、私にはわけがわかりません。本社には早く日本へ帰してくれと頼んでいるのですが――定年までここにいなければならないのかと思うと憂鬱でたまりません――」
おじさんはぽつりぽつりと語ってうなだれる。中国と肌の合わない人はほんとにたいへんなんだろうなと思った。中国を好きでもなんでもない人――むしろ嫌いな人が中国と面と向かい合ったときに感じるストレスは相当なものだろう。
駐在員の場合、業務量もプレッシャーも大きい。
一般的に駐在員は、給料、福利厚生、住居、仕事の経費といった諸々の費用を合計するとひと月十万元(約百七十万円)の経費がかかる。広州の大学の新卒は月給三千元、福利厚生や仕事の経費も合わせてひと月四五〇〇元(約七万五千円)だから、約二十二倍の費用がかかることになる。つまり、ひと月十万元(約百七十万円)のコストに見合っただけの結果を出さなくてはならない。日本人ひとりで数百人の部下を抱えるケースもざらだから業務量も半端ないほど多い。日本であればざっと指示さえしておけばあとはベテラン社員が仕上げてくれることでも、中国では基本的に日本人ひとりだから細かいことまで自分で見なくてはならない。おまけに日本では「異常事態」とされることが日常茶飯事で起きてその対応に追われる。プレッシャーと激務で心身ともに消耗しきってしまう。
中国の駐在生活は過酷だ。
鬱病に罹る人が大勢出てもすこしも不思議ではない。