わんぱくすぎるよ
「きのうは忙しかったのよ」
いつも頼んでいる美容師さんが僕の髪を切りながら言う。なんでも店の若い女の子が首を捻ってしまい、それでその子に付き添ってずっと病院にいたそうだ。若い女の子は顔をまっすぐにできないからベッドで眠る時も首を横に向けたままなのだという。
「寝違えたの?」
「違うの。店が終わった後で、アシスタントの男の子がその子にマッサージの技を試したのよ。ほら、両手で顔をおさえて、おりゃっと首を回して首の骨をぽきぽき鳴らすやつがあるじゃない。そしたら、ぐにゅって鈍い音がして彼女が悲鳴をあげちゃったの」
美容師さんは櫛と鋏を持った手をとめ、あははとほがらに笑う。楽しそうだ。
「もう大失敗よ。でも、お医者さんはたいしたことないって、骨に異常はないから三週間くらいで治るだろうっていっていたわ」
「まあ、よかったね。下手をしたら、最悪、全身不随になるところだったものね。ところで、君の店ではその首のマッサージサービスを始めるの」
その店では、最後に頭をお湯で流した後、アシスタントの子が肩や頭をすこし揉んでくれる。マッサージサービスをグレードアップしようとしてそんな危ないことを試したのだろうか。僕は恐るおそる訊いた。
「店ではやらないわ」
「それを聞いて安心したよ」
「その男の子がどうしてもその技を試してみたかっただけ。まだ十八歳だもん。わんぱくなのよ」
「うん、わんぱくすぎるよ」
やっぱり中国人はカンフーみたいな技が好きなんだろうなあ。大事にいたらなくてよかったけどさ。




