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伝えたかったことが大切なのでは


 十月三十一日の園遊会にて、山本太郎議員が天皇陛下へ手紙を渡した。手紙の内容は公開されていないが、山本議員が記者会見で答えたところでは、手紙の内容は福島第一原発の放射能汚染事故に関して国民の健康被害と原発で収束作業に従事する作業員の劣悪な労働環境について実情を伝えたものだという。天皇へ直訴したことについて、山本議員は「常識的には失礼にあたるかもしれないが、現状を伝えたいという気持ちが勝ってしまった」と発言している。政治家が天皇陛下へ公害問題について直訴するのは、一九〇一年、田中正造が足尾銅山鉱毒事件に関して明治天皇へ手紙を渡そうとして以来、百十二年ぶりのことだ。


 すぐさま、主に自民党を中心とした既得権益勢力から山本議員の行為が天皇の「政治利用」にあたるとしてバッシングが始まった。また、様々な人たちから、主権在民の観点に照らして、政治の権限を有さないことにしている天皇へ直訴を行なうのは民主主義の否定ではないかとの疑義も呈された。


 政治利用というのであれば、自民党は常に天皇を政治利用してきた。「国家主権回復の日」の式典に天皇陛下を出席させたのもそうだし、東京オリンピック招致の国際オリンピック委員会のプレゼンでは皇族がスピーチした。そもそも、天皇は日本国で最高の外交官だ。外国要人との会見は立派な政治活動の一つ。言ってしまえば、天皇は「政治利用」されるのが仕事なのだ。つまり、山本議員が天皇を政治利用したと宣伝してまわる輩は、自分たちが常に天皇を政治利用しているからこそ、余計なことを天皇に吹き込んでもらっては困る、天皇が自分たちの思うように動かなくなったらどうしてくれるんだと主張しているにすぎない。


 天皇への直訴が民主主義の否定だという意見は筋が通っている。先の大戦の反省を踏まえ、天皇は政治の権力を有さないと新憲法で規定された。そして、とりあえず、表向きはそれが守られてきた。民主主義は自立の精神に支えられている。民主主義は国民が代表者を選び議会を通じて政治の運営を行なう――つまり国民が自立して政治を行なうということだ。それなのに、天皇に「依存」したのでは、民主主義を否定することになってしまう。

 また心配なのは、たとえば「中国は尖閣諸島を占領しようとしていてけしからんので中国と戦争してやっつけてください」などと直訴する連中が現れたらどうなるのだろうということだ。天皇への直訴は、悪用されるととんでもないことにつながりかねない。国の問題はやはり国会で解決するべきものだ。

 もっとも、今の国会はコーポラティズム(大資本を中心とした政官財マスコミによる支配)に乗っ取られてしまっており、民主主義の機能を果たしていない。議会が議会として機能していないことが、福島第一原発事故と放射能汚染に関する国民の不安といらだちを募らせ、山本議員をあのような行動に走らせたとも思うのだが。


 政治的な戦術としては、天皇直訴はたしかにまずい。

 既得権益勢力や原子力マフィアに山本バッシングの口実を与えることになってしまう。産経新聞の山本議員インタビューの記事を読んだが、ひどい内容だった。記者は意地悪くこれでもかとばかりに山本議員へ悪態をつく。記事全体に山本議員を社会的に抹殺しようとする悪意があふれていた。これではインタビューではなく一方的な吊し上げだ。自民党からは、山本議員への懲罰や辞職を求める声が上がっている。

 ただ、山本議員に求められていることが政治的な駆け引きの上手さかと言えば、そうではないだろうという気がする。もちろん、政治家なのだから「政治的」にもっと上手に動いてほしいという意見はもっともだ。原発推進勢力は手強い。だからこそ、したたかに行動しなくてはいけない。とはいえ、僕は、山本太郎氏は芸能界という特殊な業界で仕事をしていたものの、彼の本質はごく普通のお兄ちゃんなのだと思う。ごく普通の、でもけっこう熱血漢のお兄ちゃんが脱原発を訴え、それが庶民の心に響いて、庶民は国民の代表として彼を議会へ送り出した。だから、彼に求められているのは、それがいいか悪いかは別として、天皇陛下へ手紙を渡して衷心を訴えるような愚直さなのかもしれない。複雑でこみいった問題は往々にして愚直にやらなければ解決できないものでもあるわけだから。


 人の世ではしばしばその当人が伝えたかった内容よりも、伝えようとした行為が問題にされる。山本議員が天皇陛下へ手紙を渡したことばかりが問題視されているが、ほんとうに大切なのは彼が訴えようとした内容なのではないだろうか。

 山本議員は国民の被曝の現状を訴え、福島第一原発の作業員の労働環境の劣悪さを訴えた。彼は国民の生活を守りたいと思いそう訴えた。いちばん大切なのは、彼が訴えたとおり、福島第一原発の収束作業をどうするのか、作業員をどのようにして守るのか、被曝にさらされている国民――とくに子供たち――をどうやって守るのかではないだろうか。そして、これらを今一度真剣に議論し、問題を解決してゆくことなのではないだろうか。

 原発事故と放射能汚染の問題が天皇制や園遊会でのエチケットの問題にすりかわってしまっては、それこそ国民を被曝させたまま原発を推進しようとする輩たちの思う壷だと思うのだが。

 


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