中国で起きたスターバックス・バッシングについて
中国ではスターバックスのコーヒーの値段が高いとバッシングが起きた。またぞろ、外資系企業への嫌がらせが始まった。
バッシングの内容は、ロンドンではラテのトールサイズ一杯が24・25元なのにどうして北京では27元(約430円)もするのだ、スターバックスは暴利をむさぼっている、というものだ。各地のメディアが取り上げ、中国の国営放送でもこの件を繰り返し取り上げた。
たしかに、中国のスタバの値段は高い。27元もあればチャーハンとワンタンメンを注文できる。だが、先進国の外食チェーン店が中国へ参入する場合、価格設定が高くなるのはしかたないことだ。外国から高価な設備を輸入し、外国から管理者と教育係りを駐在させ、一等地へ出店するのだからコストが高くなって当然だ。もちろん、高い価格設定にして高級ブランドイメージをつくりたいという企業の思惑もあるだろう。とはいえ、最初はかなりの割高感があるが、そのうち普及するにつれて「ブランドだから少し高いけど、でも手ごろな値段」という落ち着いた価格設定になる。
このバッシングではラテの原価が4元もしないということもどうやら「スタバが暴利をむさぼる」論の根拠になっているようだ。だが、喫茶店の飲み物の原価などもともと非常に安いものだ。喫茶店は基本的に「場所」を提供するサービスだから、店舗代のほうにコストがかかる。儲かるか儲からないかは客の回転率次第だ。中国のスタバは長居する客が多いから回転率はあまり高くないだろう。つまり、一見、スタバには客がたくさん入っているように見えるが、回転がよくないから一日あたりの客数にすればそれほどでもないということになる。
中国ではコーヒー文化はまだ根付いていない。やはり中国はお茶の国だ。都会の一部でコーヒーが普及し始めたにすぎない。僕は勤め先で中国人がコーヒーを飲む姿など一度も見たことがない。会議でコーヒーを出そうとすると中国人は嫌がる。僕が机でインスタントコーヒーを飲んでいると、
「野鶴さんはコーヒーが好きですね。でも、お茶を飲んだほうが体にいいですよ。中国にはおいしいお茶がいっぱいあるんですから」
と、中国人のスタッフによく言われる。中国でコーヒーが普及して値段が安くなるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。
スタバのコーヒーの値段が高いとバッシングするのであれば、ほかにバッシングしなければならないものが山ほどある。住宅の値段は一般の労働者の手が届かない値段になってひさしい。スタバのコーヒーよりもこちらのほうが重大な問題だ。住宅が買いにくくなったばかりか、不動産バブルのおかげで土地代が年々高騰し、その結果、いろんな物価が値上がりして生活の苦しくなった人民が大勢いる。コーヒーの値段をうんぬんする前に、不動産価格をもっと大々的にバッシングする必要があると思うのだが。
今回のスターバックスバッシングはスタバを叩くことでインフレに苦しむ人民に溜飲を下げさせることが狙いなのだという気がする。人民の不満のはけ口にされてしまったわけだ。中国で商売する外資系企業はどうしても中国の国内問題の政争の具にされてしまう。
またいつものやつが始まったかと思いながら、去年みたいに日系企業がターゲットにならなくてよかったと野鶴は胸をなでおろすのではあるけれど。