初チップ
ニイハオ、ボクはラーメン屋の店員。
北京の下町で働いているんだ。
店はきたないけど、大将の作るラーメンはおいしいよ。店はいつもお客さんでいっぱい。大きなお釜はいつも湯気濛々。
ボクはいつも大声で接客するんだ。みんな、元気だねってほめてくれるよ。大きな声は気持ちいいからね。
「少年、お愛想のことあるね」
五番テーブルのお客さんがボクを呼んだ。ちょっと頭のはげたおじさんだった。
「牛肉ラーメンだったね。九元五角だよ」
ボクが腰のポーチからさっと五角札を取り出すと、
「釣りは要らないことあるね」
と、おじさんはそう言って十元札をボクに渡してくれた。
「五番テーブルのお客さまからチップを五角いただきましたっ!!」
ボクはうれしくなって店中に叫んだよ。生まれて初めてチップをもらったんだもん。これでアイスを買おうっと。
だけど、おじさんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、
「やっぱり釣りをくれるのことあるね」
とボクの手から五角札を取り上げちゃった。おじさんは気まずそうに店を出て行ったよ。
あーん、初チップはおあずけだあぁ。
沢木香穂里先生の「すきま時間のおつまみ」のオマージュです。
おそまつさまでした。