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ずいぶん落ち着いたようだけど ~中国反日デモから一年


 中国全土で巻き起こった反日デモから一年たった。

 僕は中国在住なので、去年のこの時期はけっこう大変だった。マンションの部屋にいると近くからシュプレヒコールが聞こえてくる。なんだろうと思っていると、実はそれが反日デモだった。中国人の友人がショートメッセージを送ってくれて、今近くで反日デモ隊が行進しているから外へ出てはいけないなどと忠告してくれたりした。去年の九月十八日には会社から外出禁止令が出た。危ないから日本人は家でじっとしていなさいという。もちろん、じっとしていろといわれて大人しく言うことを聞く僕ではないから、外へ行って反日デモのなかへ潜りこんでその様子を確かめたりした。郊外の工業団地では警察が工場の周りを取り囲んで物々しく警戒していたりした。


 デモが吹き荒れて、しばらくしてから街は平穏になった。ふつうに日本料理店へ行って食事できるようにもなった。だけど、仕事上のトラブルが大変だった。日本車の売れ行きが急激に落ちこみ、それまで計画していた新規案件が頓挫したり、先延ばしになった。それで仕事が暇になったのかといえばそうでもなく、スタッフを増強する計画も中止になってしまったから、少ない人数で仕事を回さなければいけなくなり、けっこう大変だった。おまけに、会社の業績が下がれば当然スタッフの士気はさがるし、売れ行き不振が長引いたおかげで、冬のボーナスはごくわずかしかでず、春の昇格昇給も少なかったから、見切りをつけて辞める中国人も多かった。中国はもともと離職率が高く、たとえば大学新卒の新人は入社から半年以内に三分の一が辞めてしまうようなお国柄だからしかたないといえばしかたないのだけど。


 そんなこんなで過労が重なって個人的にも大変だった。今年の一月にはインフルエンザから脳膜炎を併発してしまった。頭が割れるように痛んだ。毎朝、クリニックへ行って点滴を打ち、午後、CTだとか骨髄穿刺だとかの検査を受け、それからまた点滴をして夜の七時くらいに帰った。三十九度の熱が続いていたから、真冬なのに汗がだらだら出て、Tシャツ一枚で外をふらふら歩いたりした。一日だけステロイド剤の点滴を受けて、その日だけは頭痛もおさまって、食事もそれなりに食べることができたのだけど、それ以外の日は食欲がまったくなく、痛み止めを飲んでも頭痛がして眠れない日が続いた。十日ほど仕事を休んでようやく痛みが治まったものの、痛みがおさまってからも体力を恢復するまでにけっこう時間がかかった。職場へ行ってもミーティングルームの椅子に腰掛けるのが精一杯で頭がまわらない。体調が本調子になったのは三月に入ってからだ。とはいえ不幸中の幸いというか、脳膜炎ですんだからまだよかった。脳膜炎が進行して脳炎になっていたら、下手をすると外国で意識不明で入院しなければいけないところだった。考えただけでも恐ろしい。


 六月にはストレスから胃潰瘍と帯状疱疹を患った。水を飲むとお腹のなかでなにかがじわっとにじむ感じがする。胃に穴が開いているわけだから、当然、なにかがもれているのだろうけど、あれはいやな感触だった。帯状疱疹は痛かった。背筋とお腹の表面がやたらとびりびりして痛いからなんだろうと思っていたら、急に蕁麻疹じんましんができた。医者に見てもらうと帯状疱疹だという。抗ウイルス剤を飲んで、一日に何回も塗り薬を塗って治した。帯状疱疹は痛いと人から聞いていたのだけど、まさかあれほどだとは思わなかった。車に乗っていて、車がすこし揺れただけでびりびりと痛んだ。中国の道は一見平らなように見えていて実はでこぼこが多いからきつかった。痛みをこらえて客先回りをしたものだった。

 もう病気はしたくないから、いまは適当に手を抜いて、根をつめすぎないようにしている。自分の本職のところはしっかりやって、それ以外は後回しにしている。


 反日デモから一年経って日本車の売れ行きはかなり戻ったけど、まだ去年の水準には届かない。それでも今の勤め先もすこしばかり黒字が出るようになり、職場の雰囲気も落ち着いたからよかった。今年は、いまのところ、なにも起きそうにない。小さな抗議集会やデモがあったとしてもたいしたことにはならないだろう。とはいえ、火種はくすぶったままだ。日本政府も中国政府も本気でこの問題を解決する意志がないようだから、火種がいつまた爆発するとも限らない。なにかあった時はいつでも脱出できるようにしておかなくっちゃいけないなと思う。



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