クーラーの温度設定十六度
子供のときからクーラーが苦手だ。
毎年、電車やビルでクーラーがかかり始める頃になると、お腹の具合が悪くなってあわててトイレへ駆け込むことになる。クーラーが始まってから二三週間も経てば体が順応してお腹を壊すこともなくなるのだけど。
はじめて香港へ行ったとき、ビルのなかが冷房でギンギンに冷えているのでびっくりしてしまった。ショッピングモールのビルのなかへ入ったとたん、眼鏡のレンズが曇って真っ白になる。なんだか風邪をひきそうなくらい寒かった。たぶん、冷房の温度設定は二十度を切っていたと思う。ビルを出ると、また眼鏡が曇ってしまった。いくらなんでも冷やしすぎだけど、あれくらいにしておかないと「サービスが悪い」なんて言われてしまうのだろうか。
以前、広州で勤めていた事務所も、香港のショッピングモールに負けないくらいクーラーが効いていて寒かった。女の子たちはみんな寒がって、厚めのショールを肩から羽織りがたがた震えている。まるで六月のプールからあがってきたばかりのようだ。クーラーのリモコンを見るとなんと十六度に設定してあった。僕は二十五度に設定しなおしたのだけど、いつのまにか、誰かがまた十六度に戻してしまう。必要以上にクーラーを効かせるのはもったいないと思うのだけど、目一杯クーラーをかけないと涼しい気分になれないのかもしれない。おかげで夏のあいだ、何度も風邪をひいてしまった。あれはつらかった。