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贈り物の絵を買いに行った話


 アシスタントのアニメちゃんを連れて贈り物の絵を買いに行った。

 顧客企業の開業式に贈呈するお祝いの品だ。

 広州の中心にある文徳路という名の通りに絵画店がずらりとならんでいる。水墨画などの中国風の絵を置いている店が七割くらい、油絵といった西洋画を売っている店が三割くらいだ。中国ではお祝いに縁起のいい絵を贈るのがならわしで、よくあるのが馬の絵。中国では馬は縁起がいい。そこで、アニメちゃんとぶらぶら歩きながら応接室に掛けてもはずかしくない立派な馬の絵を探して何軒か見て回った。

 ところが、これだけ店があればいろんな馬の絵を売っているだろうと思いきや、実際に店を覗いてみるとどの店もほとんど同じ絵ばかりを売っている。しかも絵を見せてもらうと、店員は「これは○○という有名な画家の有名な作品の複製だ」とか、「有名な古典の絵画の一部を複製したものだ」などという説明ばかりする。オリジナルの作品がない。有名な作品の複製だから見映えがするしきれいなことはきれいなのだけど、どこにでもあるような絵画を贈呈するのも考えものだ。

「どうして同じ絵ばっかり売っているんだろう。それも有名な作品のコピーばっかりさ。不思議だよね」

 僕はアニメちゃんに言った。

「野鶴さん、中国人は有名な絵を贈ってもらわないと納得しないんですよ」

 アニメちゃんはそんなことを言う僕のほうが不思議そうだ。

「え? どうして?」

「有名なものを贈ってもらうと中国人は喜ぶんですよぉ。逆に有名なものじゃないものを贈られるとあまり喜ばないですぅ」

「有名なもののコピーなんてどこにでもあるだろう? 僕はどこにでもあるコピーより、『これは世界でただ一つだけのものです』っていうものを贈られたほうがうれしいけどな」

 アニメちゃんと話をしながら、やはり中国人はオリジナリティに対する考え方が違うのだなと思った。いいか悪いかはべつとして、中国人はオリジナリティを尊重しないのだろう。

 何軒目かの店でようやくオリジナルの作品に出会えた。たくましい馬の絵だ。全力疾走で駆け抜ける馬の荒い鼻息が聞こえてきそうだった。ただ、いい絵なのだけど、個性が強すぎて好きな人と嫌いな人にはっきりわかれてしまうような気がした。企業への贈呈品としてはふさわしくないかもしれない。

 あれこれと迷った挙句、結局、有名な古典の絵を刺繍画としてコピーした幅二メートルくらいの絵を選んだ。川の流れる草原に馬たちが草を食んだり、寝そべったりしている。落ち着いた感じがしてきれいだ。なんでも、広東省のとなりの広西チワン族自治区に工場があって、女工ひとりで三か月がかりで縫い上げたものなのだとか。

 店に職人を呼んでもらい額縁の隅に贈呈のネームを朱筆で書いてもらった。専門の職人さんだけあってなかなか達筆だ。

「うわー、すごいですねえー。きれいですねぇ」

 興奮したアニメちゃんは目を丸くしてネームの字に見入り、丸い鼻の穴をひろげて「うーん」とうなりながらしきりに感心する。美しく書かれた漢字に感激してしまうというのは、やっぱりアニメちゃんは中国人なんだな。血が騒ぐようだ。

 とっぷり日が暮れた頃、買った絵をワゴン車に積んで持ち帰った。


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