中国で過ごす年の瀬
中国は春節(旧正月)が新年だから、十二月末になっても年の瀬という感じがあまりしない。僕が住んでいる広州の街もいつもどおりだ。
例年であれば、大晦日も普段と同じように慌しく遅くまで働いて閉店間際の日本料理店へ駆けこみ、年越し蕎麦だけ食べてこっそり年末気分を味わうだけだったりする。
だけど、今年は九月に起きた反日暴動の影響で日系自動車の販売台数が落ちたために、広州の日系自動車メーカーは年末年始の六日間の工場稼動をとめることになった。顧客が動いていないので、僕の働いている職場も当然休みになった。
仕事納めの後、自分が受け持っている課の忘年会を開いた。中国語使いの日本人の男の子もいれば、以前この連載エッセイで紹介したアニメちゃんのような日本語を話す中国人もいる。彼らが飲茶をしたいと言ったから、みんなで飲茶店に入った。その店は点心だけではなく、サンドイッチやハンバーグまでメニューに載せている飲茶兼ファミレスみたいなところだった。地元の人に人気のリーズナブルでおいしい店だ。
半透明の皮で包んだえび餃子や嚙んだときになかからじわっと出てくるスープがおいしい上海小籠包や、あわびと鶏の脚煮込みといったいろんな点心を楽しんだ。鶏肉お粥も美味だ。タイ式雪梅娘という名の白い饅頭が写真付きメニューに載っていたのでそれを頼もうとしたのだけど、残念ながら品切れだった。雪梅娘ってどんな饅頭なんだろう? 食べてみたかった。
ひとつ失敗だったのはお酒がなかったこと。ビールくらい飲みたかったのだけどメニューに載っていない。それでも、二〇代の課員がほとんどだからみんな元気がいい。お茶だけで話がずいぶん盛り上がった。
「日本人の若い男はみんなハゲでデブだと思っていました」
アニメちゃんがジャスミン茶を飲みながらこんな爆弾発言をする。
「はあっ? なに言ってるんだよ」
僕と日本人の男の子がすかさず反撃に出る。
「初めて出会った日本人がそうだったんです。大学で日本語を勉強した時、若いくせにハゲでデブの日本人の先生に日本語会話を教わりました」
「あのなあ。そんな男ばかりじゃないだろ」
「すごくショックで、日本人はみんな先生みたいなんだと思ってしまったんです。だって、わたしは美形が大好きだから――」
「アニメちゃんは腐女子だから、美形同士のキスシーンをいつも観ています。そのせいでなかなか彼氏ができません」
日本語使いの中国人の男の子が横から突っこみを入れる。
「お前な、人のことをとやかく言う前にさっさと彼女を作って男になれよ」
今度は僕が彼に突っこむと、
「私はリア充度が低いので――。もしかしたらゼロかもしれません。でも、女なんてどうでもいいんです」
とその男の子は堂々と答えた。
「草食系かあ」
「そうかもしれません」
「それにしても、『腐女子』と『リア充』とか、お前はなんでそんな日本語を知っているんだ?」
「ラノベやアニメで覚えました。私は来年、日本へ行って夏コミを観てみたいです。でもお金がありません。嗚呼、お金が欲しい――」
男の子は頭をかきむしる。
そんなたわいもないことをあれこれと話し続け、かれこれ三時間くらい飲茶した。
「よいお年を」
忘年会が終わってからそう声をかけあって別れた。その言葉が年の瀬を感じさせてくれた。
来年の年の瀬も、こんなふうにみんなと飲茶でもしながら楽しくお喋りして過ごせるといいのだけど。