208/518
「わたしはシンガポール人」
抗日運動が激しかった頃、中国の各都市でタクシーの乗車拒否にあった日本人が大勢いた。日本人だというだけで乗せてくれない。
友人のI君はタクシーの運転手に「何人?」と訊かれた時、定石通り、
「韓国人」
と答えて乗車拒否されないようにしていたのだが、まずいことに一度、朝鮮族の運転手にあたってしまった。朝鮮族は主に中国東北部に住む少数民族。韓国や北朝鮮と同じ民族だから、韓国語が母語だ。嘘がすぐにばれる。
韓国人になりすますのはあまりよくないと感じたI君は次から作戦を変え、何人だと訊かれたときは、
「わたしはシンガポール人です」
と答えるようにした。
なんでもシンガポール人だと言うとウケがとてもいいのだとか。シンガポールは華僑の街だから、親近感があるのかもしれない。運転手さんがよろこんでしまい、
「うちの親戚がシンガポールへ行ったことがあったんだよ」
などと、よもやま話に花が咲くそうだ。
それにしても、シンガポール人になりすますだなんて、大胆だよな。