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日本車が売れなくなっちゃうよね


 昨日、広州の中心地の反日デモの様子を見に行った。

 報道によれば、十八日午前中、日本領事館のある花園ホテルの前では一万人規模のデモがあったそうだけど、僕が行った午後はそれほどの人数でもなかった。

 花園ホテルの周囲は警察隊がびっしり取り巻き、道路も封鎖されていた。デモ隊よりも警察のほうが圧倒的に多い。

 デモは領事館前ばかりではなく、ほかのところでも行なわれていた。ジャスコのある体育西路付近でもデモをやっていた。体育西路のあたりは広州でも有数の繁華街の一つだ。

 こちらも封鎖された道路のなかでデモをやっており、周囲は警察隊が取り巻いている。デモに参加しているのはほとんど若者で数百人規模だ。体育西路からすこし離れた体育東路では、百人足らずのデモ隊がバリケードを叩いてはなにごとかを叫んでいる。バリケードの向こう側には隊列を組んだ武装警察が控えていて、デモ隊は籠のなかで暴れる鳥のようだった。

 警察がしっかりガードしているので、暴徒化することはなさそうだ。あれだけ警察が厳重に警戒していたのでは、一般の人民はデモに参加しにくいだろう。むしろ、出稼ぎ労働者の集まる郊外のほうが危険なのかもしれない。不満を溜め込んでいるのは出稼ぎ労働者のほうだから。

 やれやれと思いながらデモ隊の後ろで彼らの様子を観た。

 デモをやっているのはごく一部の人だというのはわかっているけど、「日本なんて嫌いだ」というシュプレヒコールを繰り返し聞いているとへこんでしまう。

「野鶴さん、そんなの気にしないでくださいよ。店を壊して、物を盗んでなにが愛国なんですか。おかしいですよ。日本と戦争しろってやつもいるけど、ばかですよ。戦争していちばん困るのは自分たちなんですよ。そんなこともやつらはわかっていないんですから」

 ある中国人の友人はこう言った。

 日本でも中国を戦争しろなんていう論調がある。勇ましいことを言うのは勝手だけど、戦争をしていちばん困るのはごく普通に暮らしている人たちだ。彼の言うことは中国と日本の両方にあてはまることなのだろう。

 事務所で中国人のスタッフと話していたら、

「野鶴さんは愛国なの?」

 と訊いてきたので、

「そりゃ、誰だってふるさとがいいだろ」

 と答えた。多少はぐらかした答え方だけど、愛国ではないといえば、即中国支持ととられるおそれもある。それはそれで困る。

 僕は強烈な愛国主義者ではないけど、なんだかんだ言って日本に生まれてよかったと思っている。少なくとも、自由に本を読んで、こうして好き勝手に文章を書いて発表できる。日本の町は清潔だし、日本の自然だって捨てたものじゃない。

「それはそうよね。わたしもふるさとがいいわ」

 と、彼女は僕の答えにうなずき、

「ところで、しばらく日本車は売れなくなっちゃうわよねえ」

 としょんぼりする。

「日本車なんて買ったら売国奴なんて言われちゃうのかな」

 僕がそう言うと、

「そんなことは言わせておけばいいけど、叩き壊されちゃうわよ。いやだわ。自分の車が壊されるだなんて」

 デモンストレーションで日本車を壊していたけど、心理的な効果は結構あるのかもしれない。誰だって、自分の財産が壊されてしまってはたまったものじゃない。

「去年は震災で、今年は反日デモか。災難続きだね」

 僕がつぶやくと、

「冬のボーナスは出るのかな」

 彼女はため息をついた。田舎へ持って帰るお金のことを心配しているのかもしれない。春節の時に実家へお金を渡すことは彼らにとって、人として大切なことだから。

「ただでさえ業績が落ち込んでいるのにこれだもんな。あまり期待できないかもね」

 度重なる値下げ要求のために日系企業はどこも利益をかなり削っている。そのうえに反日デモの影響で売上げ減となれば、下手をすると会社は赤字になってしまう。

 彼女と話をしながら、日中関係の悪化や反日デモは日系企業の社員にとっては死活問題なんだなとあらためて実感した。



反日デモの光景はブログに写真をアップしています。


http://blog.goo.ne.jp/noduru/e/26c14040ee8895292476c93350a984d3

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