追悼 三浦哲郎先生 ~『白夜を旅する人々』~
僕の大好きな作家がまた一人、逝去された。
短編小説の名手と謳われた三浦哲郎さんだ。
享年七十九歳だから、大往生といえばそうだけど、やはり悲しい。数少ない純文学作家がまた一人減った。
芥川賞を受賞した『忍ぶ川』に代表されるように、どちらかといえば叙情的で古風な作品を得意とする作家だった。推敲を重ねに重ねただろうと思われる温かくて美しい文章を綴る書き手だ。短編の構成力もすばらしい。
はじめて読んだ作品は、自伝長編『白夜を旅する人々』だった。
三浦さんの一家は、生まれつき身体に色素のない「先天性色素欠乏症」と呼ばれる遺伝病を持った家系だった。彼は、男三人、女三人の六人兄弟の末っ子だったのだけど、いちばん上のお姉さんといちばん下のお姉さんが先天性色素欠乏症に罹り、気の毒なことに体が真っ白だった。この病気は女性だけが発症するらしい。男性はその遺伝子を持っていても、その病気にはならない。だけど、その男性が女の子を作った場合、その子は発症する可能性がある。
この遺伝病のために三浦さんの兄弟はみな苦しみ、次々と若くして命を失ってしまう。三浦さんはそんな兄弟の人生を思いやりに満ちた視線で丹念に描いた。ぼろぼろ涙を流しながら読んだ覚えがある。
重いテーマを扱った作品なのだけど、悲惨な運命を書いた悲しい小説というだけでもない。そこに作家としてのすぐれた力量を感じる。三浦さんの家族を襲った運命は過酷だったけど、なんともいえない温もりのある小説だった。描写も美しいし、なにより彼の故郷の南部弁の会話がとても温かくて切なくて、よかった。
こんな作品を書く小説家はもうあらわれないのだろうなと思う。
宿命を背負い続けた三浦さんの旅は終わった。
新作を読めないのは残念だけど、どうかゆっくり休んでください。おつかれさまでした。
個人的には、『白夜を旅する人々』、『忍ぶ川』、『ユタとふしぎな仲間たち』、『みちづれ』(いずれも新潮文庫)がおすすめです。機会があれば、ぜひ読んでみてください。