一人称で書くか、三人称で書くか
小説の構想を練る時、いつも一人称で書くか、三人称にするかで迷ってしまう。どちらも一長一短なので、この小説はどちらがふさわしいのだろうかと考えこむ。
一人称は主人公の気持ちになってそのまま書けばいいから、とっつきやすい。それに、主人公の想いをたっぷり描くことができる。感情の隅々まであますところなく表現できる。
だけど、難点もある。
一人称の視点は主人公の視点なので、主人公の姿や表情を描写することができない。主人公の様子を描けないから、盛り上げるべき場面でどう盛り上げるか苦心する。
もしそれを描こうと思えば、鏡やガラス窓に映った主人公の姿を主人公に独白させるか、相手に言わせるしかない。
「ひどい顔をしてるね」彼は言った。
「えっ、そうかな?」
「目の下に隈がこびりついてるよ」
「ゆうべ悪い夢を見てさ。よく眠れなかったんだ」
これでだいたいの様子は読み手へ伝えられる。「彼」のセリフを気の利いたものにすれば、表現も豊かになる。だけど、あんまりやりすぎるとひつこくなってしまう。
その点、三人称は描写の幅がきく。主人公の姿もばっちり描くことができるから、盛り上げたい場面で主人公の表情や動作を思う存分描いて盛り上げやすい。
それに一人称では解説を入れることはできないけど、三人称ならできる。歴史小説で歴史的背景やその時代の習慣などを書き入れたい時は便利だ。
ただ、こちらも弱点がある。
いろいろ応用がきくという意味では三人称のほうが優れているのだけど、主人公の気持ちに密着し続けることはむずかしい。三人称でも一人称的な心理描写を加えることはできるけど、ある程度のところで切り上げないといけないから、世界のすべてを主人公の色に染めあげることはできない。
一人称は使い勝手のよい小刀。
三人称は切った張ったと大立ち回りできる長剣。
といったところだろうか。
もちろん、一人称も三人称もいろんな使い方がある。
これはあくまでも僕の個人的な見方だけど。