トホホな会議
先日、今住んでいる広東省から中国北部のとある町まで出張してお客さんの会社へ行き、会議に出た。お客さんと同業者たちを合わせて十五人くらいが出席したちょっとした会議だった。
僕以外はみんな中国人だ。
日本語を話せるのは、僕といっしょに出張した中国人の同僚だけ。当然、中国語だけで会議を開くことになる。
中国人はとにかくよくしゃべる。基本的におしゃべり好きな民族だ。そのくせ、要領を得ないし、肝心なことはほとんど言わないから、煙に巻かれたような気分になることがよくある。僕も中国語でおしゃべりするのは好きなのだけど、正直言って、中国語だけの会議はしんどい。でも、そんなことは言ってられない。
――これも仕事のうち。がんばって聞き取るか。
僕は会議の前にちょっと気合を入れた。
会議が始まってすぐ、僕はひっくり返りそうになってしまった。なんと、お客さんの中国人担当者は地元の方言で話し出すではないか。これでは半分も聞き取れない。
うーんと僕は首をひねってしまった。
相手は、誰もがその名を知っている日系グローバル企業と中国企業の合弁会社だ。日本語を話してくれなんて贅沢なことは言わないけど、せめて、北京標準語くらい話してくれてもよさそうなものではないか。
僕はよっぽど「標準語で話してください」と言おうかと思ったのだけど、彼らの言葉をよーく聞いていると、標準語のようにも聞こえる。もしかしたら、下手なりにがんばって標準語で話そうとしているのかもしれない。ここで「標準語で話してください」などと言えば、彼らの面子を潰してしまうだろう。中国人にとって面子は命より大切なものだ。やっぱり言えない。
結局、三時間ほど、方言もしくは訛りの非常に強い標準語を聞き続けるはめになってしまった。
もちろん、全員が全員、方言で話していたわけではないのだけど、ジグソーパズルのピースを埋めるようにしてわからない言葉を類推しながら聴いていたので、終わりのほうは集中力がすっかり切れて頭がくらくらした。
中国人はとんでもない開き直り発言を平気でするから、いつもびっくりさせられる。それでいて、自分に損だと思ったら、なんにも言わずにちゃっかり軌道修正したりする。相手のトンデモ発言を聞いている中国人も、それがわかっているから平気で聞き流している。実に奥の深い人たちだ。案の定、相手はびっくり仰天な言い訳を言ったけど、それに反応する気力さえ残っていなかった。
会議が終わった後、中国人の同僚は「会議なのに方言で話すなんて……」と疲れた顔でこぼしていた。中国人にとっても、やっぱり方言で話されるのはつらいようだ。
あれだけ国土が広ければ、方言の差が激しいのもむりはない。若い人はたいていそこそこの標準語を話してくれるけど、おじさん、おばんさんだとなかなかそうもいかない。十三、四億人の中国人全員に同じ言葉で話せということ自体がそもそもむりなことなのだろう。それにしても、なんともトホホな会議だった。