幸せの麻薬
幸せとは、極めて依存性の高い薬物のようなものだ。
全部諦めて、もう何も期待せずに生きようと思っていても、日常生活の中で細かいストレスが積もり積もってくると、ある一定のラインを超えた時に、あの幸せな瞬間の記憶が中毒症状を引き起こして、欲しい欲しいと脳が訴えかけてくる。しかしそれをある程度落ち着かせながら、少しずつあの頃の幸せの味を噛み締めると、程よい充実感が得られるのであった。
幸せの味は砂糖よりも甘くて、味わいすぎると、歯がぼろぼろになってしまって、やがて身体も悲鳴を上げてしまう。だけどあの時、幸せの麻薬を全力で貪っていた時には、このままぼろぼろになっても良いやと思えるくらいに、世界が全部輝いて見えていて、その時だけは、私はこの世で一番幸せだったのだと思う。
今でもあの日の雨のにおいが、鮮明に脳裏に浮かぶ。傘を忘れた私に優しさをくれたのは、あなたにとっては気まぐれ。だけどそれでも良いと思える。同じ傘の中であの輝く笑顔を見られただけで、私はーー@jmgdjhm@dpw
ざーーっ。
部屋の中で、雨が降っている。
大雨の部屋の中、下らない人間がひとり。
孤独であればあるほど、この雨は勢いを増す。
人間の形をした抜け殻である。それはもはや人としての自我を失い、ただそこに鎮座するだけの置物と変わらない。私は幸せの麻薬の代償でずっと、雨に打たれている。あの日と同じ雨にずっと打たれて、時折あの笑顔を思い出しては、救われるような心地がして、しかしすぐに自我を失う。
もう何もいらない。
もう何も怖くない。
あの時の記憶だけで、
これ以上なにを求める。
あれ以上大きな幸せなんてあるだろうか。
きっと求めすぎたら破滅する。
だから求めることをやめる。
私にはあの美しい記憶だけで、
それだけでーー
「あぁぁぁ…。」
雨が強くなり、
思わず漏れた情けない声は、
雨音にかき消された。
幸せの麻薬。
それは破滅へ導く薬。
だけど破滅に至るまでの記憶。それはーー
これからの生きる価値になるくらい、かけがえのないものであった。
だから私は今、感謝の気持ちで溢れている。
部屋の中に降り注いでいた雨は、しばらくすると止んだ。
そしてまた、雨上がりのぬかるんだ道を、
固めながら歩いていく。




