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女剣士(ヒロイン)拾っただけなのに ~なんで俺がラブコメの主人公にならなきゃならねえんだよ~  作者: 犬上義彦


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(10-16)

 教会の前では、ヴェルザード、リリス、ガルドがしゃがみ込んでいた。


 ミュリアのヒーリングで傷は完治しているはずなのに、彼らの表情はどこかおかしい。


 キージェの手に握られた、血にまみれたストームブレイドを見て、ヴェルザードがブルブルと震えている。


「なんだ、おまえら、どうした?」


 キージェが怪訝そうに尋ねると、ヴェルザードが小さな声で答えた。


「あ、あのぅ、ぼ、僕たち……どうしたら」


 ――僕たち?


 顔に似合わない言葉遣いに背筋がぞわっとする。


 ふと、わきに視線を移すと、のんきに尻尾を振るミュリアがいた。


 ――おまえ、何をしたんだ?


 キージェが心の中で問いかけると、雪狼はツンと鼻先を上げた。


 ――治せ、言った。


 そりゃ傷を治してやってくれとは頼んだが……まさか、ひねくれた性格まで直しちまったのか?


 キージェが呆れていると、ヴェルザードが立ち上がり、つやつやとした肌と純朴な少年のようなつぶらな瞳で宣言した。


「僕たちも穴掘り手伝います!」


「そうよね」と、リリスも立ち上がる。「村の役に立つって、素敵なことよね。私もお手伝いするわ」


 遅れて立ち上がった大男ガルドが、突然リリスの手をつかんだ。


「何よ、どうしたの?」


 驚くリリスに対し、ガルドは頬を染め、熱っぽい視線で彼女を見つめた。


「リリス、俺、おまえのことがずっと好きだった」


 ――いきなり何だ、こいつ!


 キージェが呆気に取られる中、リリスはそっとガルドの手を振りほどいた。


「ごめんなさい」と、直角に頭を下げる。「わたし、あなたみたいな力だけの単純な男って苦手っていうか……無理なの。どっちかっていうと……」


 リリスの視線が、キージェに向いた。


「素敵なおじさまの方が、好みかな」


 ――はあ?


「俺!?」


 なんだよ、いったい。


 どいつもこいつもオッサンをからかうんじゃねえよ。


 だが、冗談では済まないらしい。


 クローレが甲高い足音を響かせ、割って入る。


「ちょっと、キージェは私のものだからね!」


「なあ、リリス」と、ガルドまでさらに割って入る。「もう一度俺を見てくれよ」


「ごめん、無理」


「そんなぁ」


「あんたはどいてなさいよ」と、クローレがうなだれた大男を突き飛ばす。


「お、おい、乱暴はよしてくれよ」


 巨体に似合わぬか細い声でガルドがよろける。


 クローレは容赦なく、肘打ちを食らわせる。


「邪魔だから引っ込んでなさいって言ってんのよ」


 強い口調に押しやられて、大男がしょんぼりと後ずさった。


「しょうがねえよ、ガルド。穴掘り行こうぜ」


 ヴェルザードに背中をたたかれながら、うなだれたガルドが黒衣騎兵の死体を両肩に担いで墓地に向かう。


「いい、キージェは私のものだからね」と、クローレが胸を張る。


「そんなの分からないじゃない」と、リリスが腕組みをして対抗する。「絶対私でしょ。同じ剣術使いよりも、弓使いの方が役に立つもん。恋の弓矢で男心を射貫いちゃうんだから」


 クローレは一歩も引かない。


「性格悪い癖に、似合わないこと言ってんじゃないわよ」


 ――いや、おまえさんの言葉づかいも良くないぞ。


 キージェが渋い表情をしているとクローレが詰め寄ってきた。


「ちょっと、二股かけようって言うの?」


「んなわけあるかよ」


 キージェは手を振りながら後ずさったが、誰かにぶつかって振り向くと、クレアが肩をつついてささやいてきた。


「ねえ、弓使いなら、あんな小娘より寂しがり屋の未亡人なんてどう?」


 その声は、悪戯っぽくもどこか本気めいていた。


「話をややこしくするな」


「あなたが優柔不断だからでしょうに」


 ――何も言えねえ。


「とりあえず、敵にはしたくない相手だな。あんたの弓に射貫かれたら、確実に死ぬ」


「でしょ?」と、クレアが片目をつむる。「それはおいといて、歳なんか気にしてないで、もっと自分に素直になったら」


 ――歳か……。


 二股だか三股だか勝手に騒いでいる連中のかたわらで、キージェは空を見上げて細く息を吐いた。


 俺の戦いは終わったのか、始まりなのか。


 かつての盟友(とも)の血はすでに刀の錆となって乾いている。


 それがたとえ勝利の勲章だとしても、男の栄誉に価値なんかない。


 ただ無駄に歳を重ねた足跡に過ぎないのだから。



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