(2-4)
「俺の剣は刃で切るんじゃない。ストームブレイドの《嵐》には二つの意味がある。嵐のような剣捌きの素早さと、そしてもう一つは、剣の圧という意味の嵐だ」
森の静寂に重く響くキージェの説明にクローレが首を傾げる。
「剣の圧?」
「触らずに、切る。圧をかけた段階で切っているんだ。だから錆びていても血で曇っていても関係がない。木刀……いや、ただの木の枝でも切れる」
「そんなこと、本当にできるの?」
クローレの声には半信半疑の色が滲むが、目はキージェの剣から離れない。
「おまえ、特等席で見てたじゃねえかよ」
キージェがニヤリと笑う。
ヴェルザードたちを一瞬で圧倒した技が何よりの証拠だ。
「うん、まあ、そうだけど……」
クローレは口ごもり、銀髪を指で弄びながら何か言いたげに目を泳がせる。
「なんだ、言えよ」
「だけどやっぱり、手入れぐらいした方がいいんじゃないの?」
「こうしておいた方がいいんだ」
「なんで?」
キージェは一瞬目を細め、背を向けた。
「血を忘れないようにするためだ」
――そして、重ねた業の深さを……な。
森の風が一瞬止まり、泉の水面が静かに揺れた。
「ねえ、師匠、マント脱いでいい?」
「んあっ!?」
思いがけない質問に思わず変な声が出て、咳払いでごまかす。
「お、おう、いいぞ。身軽じゃねえと勝負にならねえからな」
マントを脱ぎ丁寧に木の枝にかけると、クローレはフレイムクロウを握り直し、泉の畔に立ち、足を開いて構えた。
キージェも剣を構えて向き合う。
――やっぱりマント着せときゃ良かったな。
直視できねえよ。
「いいか、本気でかかって来いよ」という言葉とは裏腹に、おっさんの視線は宙をさまよっている。
「分かってますって」と、返事も軽い。
キージェは頬を引き締め、あらためて注意した。
「あのな、本気の意味が分かってるか。相手を容赦なく仕留めるってことだぞ。俺を殺すつもりでかかってこいってことだ」
「まあそれくらいの気合いでって言うのは分かるけど、さっきからちょっと大げさなんじゃないの? べつに本気で殺し合うわけじゃないでしょ、練習なんだから」
「だから、それだとお互い怪我じゃすまなくなるんだって」
「わかりました」と、クローレが深く息を吸い込んだ。
「よし、来いっ!」
「行きます!」
クローレは叫び、地面を蹴った。
瞬間、フレイムクロウが赤い炎を纏い、灼熱の尾を引きながらキージェの耳元を切り裂き、熱風がかすめた。
クローレの動きは流れるようで、直線的な打突から回転技への移行も滑らかだ。
剣が弧を描き、炎の渦がキージェを飲み込もうとする。
炎弧旋回からの火炎乱舞。
泉の水面が熱で揺らぎ、木々の葉がチリチリと焦げた。
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