(10-12)
キージェの声は低く、怒りに震えていた。
「オスハルト、おまえはな、俺が一番信頼した仲間だった。指揮官になったのは俺だったが、俺もおまえに信頼される隊長であろうと全力を尽くした。だが、今のおまえはあのときのおまえじゃない。入れ物はあのままだが、中身は魔物に成り下がっちまった」
「クアジャ、おまえは変わらんな。昔も今も、いつも真っ直ぐだ」
その言葉にキージェの胸が締め付けられた。
あの決戦の日、オスハルトが盾となって魔王の攻撃を受け、命を散らした瞬間がよみがえる。
共に戦い、共に笑い、共に国を守った盟友だったのに……なぜ、こんな再会をしなければならなかったのか。
敵となったオスハルトがキージェに対する思いを吐露した。
「俺もそんなおまえと共に戦ったことを誇りに思っていたさ。おまえはたいしたやつだった。俺はおまえに憧れていた」
「そうかよ」
キージェは目を細め、ストームブレイドを構えた。
「なら、心置きなくおまえを倒せるぜ。化け物よ」
オスハルトの笑みが歪んだ。
「化け物か。いいだろう、クアジャ。決着をつけよう。俺の魂は魔王に捧げた。老いたおまえに、俺を倒せると思うなよ」
「歳なんか関係ねえよ」と、キージェは笑みを浮かべた。「おまえにそれを教えてやる」
宿の窓を横目で見ると、クレアが矢の束をつかんでうなずいている。
――すげえな。
どれだけ用意してたんだよ。
つくづく敵に回したくない弓使いだぜ。
敵の隊列の背後で、ミュリアが純白の毛並みを揺らしながら鋭い眼差しでキージェを見つめている。
――いいか、やるぞ。
キージェの心の声に応え、雪狼がふわりと尻尾を振った。
――まかせて。
ウオオオオオォン!
響き渡るミュリアの咆哮に馬が怯み、黒衣騎兵の隊列が崩れた。
クレアの矢が兵士の肩を貫く。
「行くぞ!」
「うん!」
キージェは剣を落とした黒衣騎兵に突進し、脇腹から錆びたストームブレイドを突き上げた。
落馬した兵士にミュリアが噛みつき、まずは一人。
二騎に挟み撃ちにされたクローレがフレイムクロウを天に突き上げた。
一瞬顔に疑問符が浮かんだ黒衣騎兵に周辺の建物から藁束が投げつけられる。
空中で炎が燃え移り、馬がいななき、藁を払いのけた騎兵の腕にクレアの矢が突き刺さる。
体勢を崩し落馬したところに村人からの石が降り注ぐ。
「俺がやる」
キージェが剣を突き立て二人目。
もう一方の兵士は、馬を盾にしながら原始的な投石攻撃に耐えている。
クローレが炎弧旋回で襲いかかると、炎に追われた馬が跳ねて駆け出し、取り残された兵士と一対一で対峙する。
「くそっ!」
捨て身で突進してきた敵兵がのしかかり、クローレは石畳に押し倒された。
「痛いじゃない! ちょっ、どこ触ってんのよ」
「うるせえ、八年前からいい体してやがったよな、ガキだったくせによ」
ハッと目を見開いたクローレは相手の股間を膝で蹴り上げ、逆に怒りに満ちた形相で押さえつけた。
フレイムクロウを首筋に突きつけられた敵兵は不敵に笑う。
「ふっ、殺せるのか、おまえに」
クローレの瞳が揺れる。
と、影が迫って来たかと思うと、フレイムクロウごと踏みつけた。
キージェだ。
「迷ったら死ぬぞ」
石畳に広がる血だまりの臭いがもよおす吐き気を飲み込みながら、クローレはうなずいた。
三騎を失った敵は、オスハルトと残り三騎だ。
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