(10-8)
フレイムクロウを突き出し構えたクローレに対し、キージェは壁伝いに走り、真横からの攻撃を狙った。
先頭の騎兵が振り下ろす長剣に、クローレはフレイムクロウを立てて合わせた。
互いの刃が交錯した瞬間、炎が強く燃え上がり、拡散した熱波が旋風を巻き起こした。
炎気障壁にたじろぐ部下の陰からオスハルトが剣を突き出す。
クローレは怯まず正面から受けると、体をひねって剣を背中に回して敵の勢いをそぐ。
「生意気な!」
オスハルトは自らの足のごとく馬の向きを変え、再び剣を振るう。
切っ先がクローレの前髪を跳ね上げ、銀の毛が朝焼けに輝き、宙を舞う。
背中を反らし、かろうじて直撃を避けたクローレは後方跳びで間合いを取り、両脚を広げて石畳に踏みとどまった。
――ほう。
たいしたもんだ。
さすが、冒険者としてSランクってだけのことはある。
あれだけの身のこなし、しかも、胸におもりをつけてるようなものなのにな。
それにくらべて俺は……。
息は上がって心臓は破裂しそうで脚はもつれる。
昔は、あんなふうに身軽だったんだけどな。
と、その瞬間、キージェはクローレと対峙するオスハルトの姿に釘付けになった。
――おまえ。
死んだはずの盟友との再会が衝撃的すぎて気づかなかったのだが、盟友はかつての姿をそのままにとどめていた。
しみ一つないつやのいい肌、隆々とした筋肉、濃くて太い毛髪。
あまりにも十五年前の記憶、当時の姿そのまますぎて、まるで違和感がなかったのだ。
俺は白髪交じりのおっさんなのに、おまえは本当に不死身になったのか。
魔物……なのか。
「何をぼんやりしている! かかってこい!」
――いかん。
戦いのさなかに物思いにふけりすぎた。
気づけば目の前にオスハルトがいた。
「キージェ、今行くから!」
クローレは三騎に阻まれ動けずにいる。
脚をもつれさせながら後退したキージェは、転がっていた布袋につまずいて尻餅をつき、無様に股を開いて後転した。
みっともない姿をさらしたが、おかげでオスハルトの突進を回避できた。
――しっかし、なんだよ、危ねえな。
広場の隅に投げようとつかむと、それはただの布袋ではなく、黒衣騎兵に引きずって連行されたヴェルザードたち三人だった。
擦りむけた肌は赤黒くただれ、ぴくりとも動かないが、まだ息はあるらしい。
ヒュイッと、口笛で雪狼を呼び寄せると、血まみれの口を突き出しながら広場をまっすぐ駆け抜けてきた。
――なんだ、おまえさん、ずいぶん暴れたんだな。
ミュリアは長い舌で、ペロリと血を拭う。
キージェは心の中で語りかけた。
――おまえさんのヒーリング能力で、こいつらを治してやってくれ。
頼んでから、三人がミュリアを罠にかけたことを思い出した。
だが、ミュリアの返事は寛大だった。
――大丈夫。
いいのか?
――まかせて。
「よし、頼んだぞ」
キージェはミュリアの背中に手をかけながら立ち上がると、クローレの援護に駆けつけた。
感想、ブクマ、評価ありがとうございます。




