(10-7)
ミーナに支えられながらセルジオもやってきた。
「ほれ、皆の者、火をつけるのじゃ!」
村人が松明で藁に火をつけると、黒い煙を上げながら天高く炎が上がる。
黒衣騎兵の馬は狭い路地で身動きが取れず、足踏みをするばかりだ。
そこへ、背後から燃える藁を満載した荷車が押し込まれた。
「しまった! 挟まれた!」
それは敵を包囲する罠だったのだ。
連戦連勝の黒衣騎兵も黒煙に巻かれ、苦痛に顔をゆがめて次々と落馬していく。
「五年前の襲撃以来、我々も学んだのだよ。弱いだけではなすがままにやられるばかりじゃ」
セルジオの声は老いた体とは裏腹に力強かった。
「この日に備えて、村を要塞化しておったんじゃ」
木造だった家を石造りに変え、路地全体をパン焼き釜の罠に仕立て上げてあったのだ。
夫や妻に親や子、恋人や仲間、愛する者を殺された人々の恨みや憎しみが爆発した。
「燃やせ! 今度は俺たちが燃やすんだ!」
両側の建物の窓からも藁束が投げ込まれ、燃え移った炎が火の雨となって兵士たちに降りかかる。
泡を吹いた馬が兵士を踏みつけ逃げ惑う。
そこへ、建物の扉が開かれ、住人が中に引き入れ、裏口に誘導して救い出す。
「精悍な馬は惜しい。俺たちがもらうぞ」
やられるだけの屈辱から立ち上がった村人たちはたくましい。
火傷を負った兵士たちはしばらくはのたうちまわっていたが、そのうち黒い炭となって動かなくなった。
「キージェ、こっち」
クローレが路地の角から現れ、フレイムクロウを振り上げる。
汗に濡れた銀髪が炎に輝き、その瞳にも闘志が宿っていた。
ストームブレイドを握ってクローレと共に広場に向かうと、教会の前ではミュリアが駆け回り、牧畜犬のごとく広場から出さぬように馬を制御していた。
二階の窓から矢を射るクレアも、路地に隠れようとする黒衣騎兵を威嚇し、広場にあぶり出している。
右肘を射貫かれた兵士が落馬する。
他の兵は仲間を気にすることなく馬蹄の下敷きにしてしまう。
物陰から様子を探っていたキージェは窓辺で次の矢をつがえるクレアを見上げた。
――あれは……まさか。
狙っているのか。
腕や脚を狙って落馬させ、苦痛を与え、死の恐怖を味わわせる。
そのためにわざと急所を外して撃っているのだ。
しかも、馬に当たらないように、兵士が手綱を握った瞬間を狙っている。
とんでもない使い手だ。
敵じゃなくて良かったぜ。
「よし、行くぞ」
キージェとクローレは剣を構えて同時に広場に躍り出た。
「いたぞ!」
オスハルトがクレアの放つ矢をなぎ払い、三騎を引き連れ突進してくる。
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