(10-4)
「おまえが去った後、誇り高き黒衣騎兵は解体された」と、オスハルトは続けた。「俺はそれを再び編成し、魔王直属の精鋭に仕立てた。そして、かつて俺の犠牲の上に英雄となった者たちを探しだし、始末していったのだ」
「なんだと」
キージェは声を震わせながら、部下であり仲間であった連中の顔を思い浮かべた。
命をかけて国を守り、家族との再会や穏やかな暮らしを夢見たやつらはみなオスハルトを尊敬し、その勇気を語り継いでいたはずなのに。
戦友たちの笑顔がオスハルトと重なり砕け散る。
「おまえはそのために、無関係の村まで焼き払ったのか」
「隠しだてしたやつらを成敗したまでだ」
そしてまた、このリプリー村で、過ちを繰り返そうというのか。
クレアの夫を殺したように。
「五年前もここの村を襲ったそうだな」
「焼き尽くした村など数え切れない。覚えてなくてすまんな」
対話を続ける二人の横で、兵士に刃を突きつけられたミーナをセルジオ爺さんが必死にかばおうとしている。
風に乗って牧草の香りが漂ってくる。
穏やかな暮らしを続けてきた何の罪もない村人に以前と同じ苦しみを味わわせるわけにはいかない。
「俺を仕留めたいなら、こうして現れてやったんだから、もう村人は関係ないだろう。放してやれ」
「俺に指図をするな。人質の使い方も戦いのうちだ」
「おまえはそんな卑怯者じゃなかった」
「ああ、そうだ。俺も誇り高き黒衣騎兵の一員だった。だが、それは昔のことだ。今の俺はもう人ではない。魂を売った魔物だ」
「俺はおまえをこの手で殺さなければならないのか」
キージェはマントから腕を出し、馬上のオスハルトをにらみつけた。
「俺は不死身だ」と、哄笑が浴びせられる。「おまえに俺は倒せない」
と、そのときだった。
「キージェ!」
広場に反響する叫びに振り向くと、燃えるような銀髪を振り乱したクローレがフレイムクロウを握りしめていた。
――なんだよ。
おまえさんは薬を盛られたんだ。
おとなしくおねんねしてろよ、お嬢ちゃんよ。
「私、この人知ってる。あの額の傷。忘れられるはずがないもん。私の村に火をつけた仇はこいつなのね」
オスハルトはゆがんだ笑みを返した。
「どこの誰かは知らんが、なかなかいい女じゃないか。俺のものになればおまえも不死身にしてやるぞ」
「お断りよ!」と、クローレがキージェの腕に絡みつく。「私、ずっとこのときを待っていた。逃げた卑怯なクローレって笑われ続けて悔しかったけど、復讐したって誰も帰ってこないって諦めてた。だけど、キージェに出会ってもう一度戦おうって思った。ここで村のみんなの恨みを晴らしてやる!」
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