(10-2)
と、不意に笑みがこぼれる。
この期に及んでも俺はまだ勝つつもりでいるんだな。
数でも質でも圧倒的に不利なのに、剣士の本能が勝算を探ろうとしている。
セルジオ爺さんが黒衣騎兵の前でひざまずく。
「たしかに昨日、その手配書の男らしい不審者がギルドに参りましたが、獲物の査定をしてこの村を去りました。その娘は何の関係もございません。どうかお助けください」
馬上の兵士が冷たい声でたずねる。
「獲物というのは鉤爪熊か」
――ん?
やつら、なぜそれを……。
「はい、さようでございます」と、セルジオは正直に答えた。「見たこともない大物でした」
「そいつを倒したってことは、間違いなくクアジャだな」
兵士は指揮官と視線を交わし、その目に狂気の炎を燃え上がらせた。
「出てこい、クアジャ! さもなければ、この村ごとおまえを焼き払うまでだ」
――村を焼き払う、か。
クローレにつらい過去を思い出させたくはない。
とはいえ、姿を見せたところで、やつらがおとなしくなるとも思えない。
ヴェルザードたちを容赦なく痛めつけたように、誇りを失った黒衣騎兵はキージェとともに村も焼き払うだろう。
ミーナも、村も、そしてクローレのためにも、やつら全員を倒すしかないのだ。
しかたねえか。
どうなるのかは分からねえが、やられちまったら、どうせ分からねえんだ。
キージェの頭の中にはこれまで倒した相手の断末魔の悲鳴がこだました。
やつらは、戦いの帰趨も、その後の平和も、残してきた家族の幸福も知らずに死んでいったんだ。
それは共に戦った仲間たちもそうだ。
俺は勝ち続けたから生き残った。
だが、そんな勝利の裏で、味方のために犠牲になった戦友たちに、俺はどういう顔を見せればいいのか。
死んでいった連中の顔が思い浮かぶが、答えはどこにも見つからなかった。
オスハルト、おまえが死んだのも全部俺のせいだよな。
その報いはいつか受けねばならない。
そう思ってこれまで無駄に生きてきた。
ただ終わりの瞬間を求めて。
ここがそうだというなら、やるしかないさ。
体中の血が沸騰したような熱に押し出され、キージェは広場へと歩み出た。
全身を包むマントの下でストームブレイドを握りしめて名乗りを上げる。
「俺はここだ」
「潔く現れたか、クアジャ」と、指揮官が正面に向き合う。「国王陛下の名において貴様を成敗する」
「何の罪だ? 婦女暴行犯などとふざけやがって」
「罪状などどうでもいい。貴様の存在自体が目障りなのだ」
「なんだと?」
「俺だ、クアジャ」と、指揮官が覆面を剥ぎ取った。
――まさか。
絶句するキージェを指揮官が笑う。
「なんだ、挨拶もなしか。命の恩人に対して」
「オスハルト……おまえ、どうして……」
目の前に立ちはだかるのは、忘れもしない、死んだはずの盟友だった。
しかも、決戦の最中に致命傷となった額の傷までしっかりと残っている。
――間違いない。
やつはオスハルトだ。
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