(7-2)
「ほら、焼けたぞ」
二匹目を先にクローレに渡す。
「わーい、いいの?」
「リーダー様だからな」
「それでは、いただきます」
勢いよくかじりついたクローレは唇に魚の脂を光らせながら、「んー、おいしい!」と目を細めて幸せそうに微笑んだ。
ミュリアはすでに骨になった魚をガフガフと砕いている。
――やっぱり、狼だな。
キージェはようやく焼き上がった自分の分にかじりついた。
じゅわりと脂がにじみ出て岩塩の風味とからみあい、あぶられたパリパリの皮の香ばしさが絶妙だ。
ずしりと重たいのに、あっという間になくなってしまった。
骨をミュリアにやると喜んでかじりついている。
白身より、そっちの方が好きなのか。
――ごちそう。
そいつは何よりだな。
三匹分の骨まできれいになくなると、クローレは市場で買ってきた干しぶどうを手のひらにおいて、ミュリアに食べさせた。
「すっかり懐いてるな」
「賢くてかわいくて、いい相棒だよね」
――三百歳だと知ったら、驚くだろうな。
キージェが一人で笑みを浮かべていると、クローレににらまれる。
「何ニヤけてんの」
「なんでもねえよ」
さっきまでかろうじて残っていた夕日はすっかり沈み、空には星が散らばっていた。
クローレは立ち上がると、軽やかにステップを踏みながら火のまわりで踊り出した。
ミュリアも飛び跳ねながらそれについて回る。
純白の毛並みが夕日に代わってたき火の炎に染まり、火の玉が舞っているかのようだ。
二人の動きは息が合い、湖畔は小さな舞台に変わっていた。
無垢な笑顔にえくぼを浮かべたクローレが後ろ向きに手拍子をすると、ミュリアもくるくる向きを変えながら跳躍し、二人の舞踏は盛り上がっていく。
一周回って、座ったままのキージェの肩をたたいて通り過ぎたクローレが、「ほらほら」と、手招きする。
はあ、俺も?
勘弁してくれ。
俺は歌とか踊りは全然ダメなんだよな。
腰をくねらせ胸を揺らしながらクローレがキージェに迫ってくる。
「ほらほら、ヴォルフ・ガルムみたいに追いかけてきてよ」
ミュリアの声が聞こえる。
――男、みな、狼。
あほか。
狼が言うな。
キージェはやけくそで両手を爪に見立ててクローレを追いかけ回した。
「あはは、そうそう、ほら、こっち」
後ろ向きに火のまわりを回るクローレのそばでミュリアが跳ね回り、キージェはやる気のない声で、「ガオー」と追い回す。
なんだよ、これ。
ただ火の回りを歩いてるだけじゃねえか。
「キージェ、狼っていうより幽霊だよ」
「ガオガオ」
「全然怖くなーい」
ケラケラと笑いながらくるりと回転すると、髪を縛っていた紐が解けて銀髪が炎に煽られ、星空に舞う。
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