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(6-6)

 あれ、ていうか、クローレには雪狼の声が聞こえないのか?


 その疑問にすかさず答えが返ってくる。


 ――届かない。


 なんでだ?


 ――聞こえる、珍しい。


 俺の方が珍しいわけか。


 といっても、なんか、心の声を通訳してやるっていうのも、なんだかな。


 おっさんが動物の真似をするとか、笑われたら最悪だ。


 キージェはあえて黙っていることにした。


「でも、ヴォルフ・ガルムも吠えると気絶するって言われてたけど、雪狼の鳴き声もすごいんだね」と、クローレが雪狼の足の様子を見た。「この子、罠にかかってたのに、怪我してないの?」


「ヒーリング能力があるらしい。さっきまでは血だらけだった」


「すごいね。強いだけじゃないんだね。すごくかわいいもん。この白い毛、すっごくふわっふわで柔らかいよ」


 雪狼の足を自分の右手に乗せ、左手で頭をなでてやっている様子は、飼い犬をかわいがっているどこぞの貴族のお嬢様みたいだ。


「ねえ、キージェ、この子も連れて行こうよ」


 はあ?


「雪狼が人間になつくなんて、聞いたことねえぞ」


 と言ってるそばから、雪狼はクローレに撫でられるまま、巨体をよじって腹まで見せている。


「おまえ、もしかして、テイマーの才能あるのか?」


「さあ、どうだろ。動物の扱いは慣れてるとは思うよ。ダンジョンでモンスターの相手ばかりしてたからかな」


「冒険者としてはSランクだもんな」


「そうそう、Fランクおじさんとは違うのよ」


 ったく、調子に乗りやがって。


 と、雪狼の声が聞こえてきた。


 ――いっしょ、行く。


 本気かよ?


 ――お礼。


 助けてやったっていうか、むしろ俺たちの方が助けてもらったようなもんだけどな。


「ねえ、いいでしょ」と、クローレも瞳をうるうるさせながら上目遣いに見つめている。


 おまえは野良犬を拾ってきちゃったお嬢ちゃんかよ。


 目線を合わせるのが照れくさくて、キージェは、「まあ、いいけどよ」と、適当にはぐらかした。


「やったあ」と、クローレが雪狼に頬ずりする。「この子、ミュリアって名前にしようよ」


 ――いい名前。


 ほう、気に入ったのかよ。


「じゃ、それでいいだろ」


「よーし、今日からミュリアは友達だよ。よろしくね」


 くぅんと、柄にもなくかわいらしい声を上げるミュリアにニヤけそうになるのを、キージェは心を読み取られないように頬を引き締めてこらえた。


 クローレが立ち上がってポンポンと手をたたく。


「よーし、じゃあ、ミュリア、リプリー村まで走るよ!」


「おい、待てよ」


「ほら、キージェ、競争だよ!」


 勘弁してくれ。


 あのな、おっさんはいきなり走ると怪我するんだよ。


 ――だから、俺はラブコメの主人公には向かないんだっつうの。


 まったく、おかしな仲間まで増えちまって。


 おっさん四十五歳、膝を気にしつつ、ため息をつきながら追いかけたものの、一人と一匹の背中はあっという間に見えなくなっていた。



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