(6-5)
それにしても不思議だ。
人間の言葉が分かる雪狼なんて聞いたことがない。
しかも、声ではなく、心に語りかけてくる。
「おまえさん、なんで人間の言葉が分かるんだ?」
――ハーフエルフ。
「雪狼は仮の姿なのか?」
――三百歳。
エルフの寿命は二千年くらいと言われている。
三百歳なら、まだ人間の十歳くらいだろうか。
「体は大きいのに、中身は案外子供なんだな」
――噛むよ。
勘弁してくれ。
そういうところがガキじゃねえかよ。
と、そんなことを考えた瞬間、頭突きを食らう。
「ちょ、なんだよ、おい。もしかして、人の心も読めるのか?」
雪狼はツンと澄まし顔で返事をしない。
難しい性格だなと思いかけたものの、今度は本当に噛みつかれそうで、キージェはあわてて思考を断ち切った。
そんな心の会話をしている撃ちに、雪狼の脚はきれいに治っていた。
純白の毛並みは陽光を浴びた雪山そのものだった。
たいしたヒーリング能力だな。
キージェは心の中でたずねた。
自分で治せるなら、なんで罠から抜け出さなかったんだ?
――悪いやつ、待つ、噛む。
罠にかけたやつをおびき寄せてたってことかよ。
勘違いされてたら、危うく噛み殺されるところだったぜ。
――大丈夫、心、分かる。
なるほどな。
クローレが善人で良かったぜ。
おお、そうだ。
ヒーリング能力でついでにクローレも目覚めさせてやってくれよ。
まだ、だらしなく脚を広げて、蛙のようにひっくり返っている。
まったく、気絶したとはいえ、酔い潰れたおっさんみたいで無防備すぎる。
キージェはマントを寄せて下半身を隠してやった。
このマント、ずいぶんと役に立つな。
買ってやって良かったぜ。
雪狼はクローレのかたわらに寄り添うようにしゃがみ込み、白い毛をかぶせた。
少しすると、クローレがもにゃもにゃと何やら寝言のような言葉をつぶやき、目を開けた。
「あれ、夢?」
勢いよく起き上がると、周囲を見回し、髪の毛をまとめる。
「うわ、なんかすごい泥」
と、そこでようやく思い出したらしい。
「あれ、あの嫌味なやつらは?」
「逃げていったよ」
「へえ、そうなんだ。さすが師匠」
「いや、俺じゃねえよ」と、キージェは雪狼を指した。「こいつが吠えてみんな気絶したんだ」
「そうだったんだ」と、クローレが目を丸くする。「私も?」
「白目むいてたぞ」
「やだ、恥ずかしい」
――ああ、見てられなかったぜ。
目は離せなかったけどな。
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