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(1-3)

 その時、群衆の後ろから低い声が響いた。


「なあ、そのくらいにしときなよ」


 群衆が振り返ると、ボロボロの黒マントを羽織った中年の男が立っていた。


 無精ひげを生やし、灰色の髪は乱れ、腰に下げた剣の鞘は傷だらけだ。


 見た目はただの引退した冒険者だ。


 中年男は鼻をこすりながら面倒くさそうに首を振った。


「弱い者いじめをしても、あんたらが強くなるわけじゃねえだろ」


 ヴェルザードが鼻で笑う。


「なんだ、このみすぼらしいおっさんはよぉ。引退したジジイが説教か?」


 リリスが口元を押さえてくすくす笑う。


「おじさん、こんなところに首突っ込むと怪我するわよ。さっさと消えなさい!」


 ガルドが戦斧を肩に担ぎ、「邪魔だぜ、ジジイ!」と、唾を吐く。


 男は小さく舌打ちした。


「……ったく、俺だって関わりたくねえんだがな」


 彼はゆっくり歩み寄り、剣を抜いた。


 群衆のざわめきが止まり、張り詰めた空気が広場を覆ったかと思うと、それは一気に爆笑に変わった。


「なんだ、あれ、錆びてるぜ!」


「人間もヨボヨボだけど、剣までボロボロとはな」


「やめときな、おっさん!」


 野次を浴びて頭をかきつつ、男は三人の前に立った。


 ヴェルザードが杖を突きつける。


「聞こえねえのかよ。引っ込んでな!」


「あんたらがおとなしく引っ込んでくれたらな」


「なんだと、てめえ、いい気になりやがって!」


 ヴェルザードが杖を振り、黒い魔力の刃を放つ。


 同時にリリスが短剣を投げ、ガルドが戦斧を振り下ろす。


 三方向からの攻撃がキージェに殺到した。


 だが、次の瞬間、広場に雷鳴のような衝撃音が響いた。


 魔力の刃は霧散し、短剣は空中で弾かれ、ガルドの戦斧は真っ二つに折れた。


 男は一歩も動かず、剣を軽く振っただけなのに。


 群衆が凍りつき、ヴェルザードたちの顔から血の気が引く。


「な……何!?」


 呆然とするヴェルザードに男は無言で一歩踏み出す。


 剣圧が空気を裂き、クローレが破れなかった魔力の障壁を紙のように切り裂いた。


「ぐはっ!」


 ヴェルザードが膝をつき、恐怖に目を見開く。


 リリスが短剣を手に突進する。


「このジジイ!」


 だが、キージェは一瞥しただけで彼女の手首を掴み、軽くひねって短剣を落とさせた。


 リリスが悲鳴を上げ、クローレの前に崩れ落ちる。


「ちょっと、え、何なの!?」と、目を丸くしたクローレに男が手を差し伸べる。


「立てるか、お嬢ちゃん」


「お嬢ちゃんじゃないわよ。私は剣士なの!」


 と、そこへ戦斧を振り上げたガルドが突進してきた。


「てめえ、ぶっ潰す!」


 だが、男は振り向きざまに剣で巨大な斧を払い、まるで丸太を転がすようにガルドを地面に叩きつけた。


 痙攣した巨漢が動かなくなる。


 男は小さく吐息をつき、「……あーあ、やっちまった」と呟いた。


 あっけない戦闘に群衆が静まりかえる。


「ちきしょう、この借りは返すぜ」


 ヴェルザードとリリスがガルドを引きずって逃げ出した。



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